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2005/06/10 「パンツを脱いだサル」

「パンツを脱いだサル」(栗本慎一郎/現代書館)読了。国会議員になった後、脳梗塞で倒れた著者であるが、本を書くほど回復したのは実にめでたいこと。

「経済人類学」という聞いたことない学問の名前を称した「パンツをはいたサル」という本を読んだのは、もうずいぶん昔。サルと違って、言語や宗教や経済などを作り出したのが人間で、それをパンツと称する。ああ、そうですか、という程度の感想を抱いた記憶しか残ってないのは、真面目に読まなかったからか、真面目に読みすぎたからか。これが学問かねという感想もまた覚えているのだが。

今回の本は、ご本人の脳梗塞の話から始まって、人類水生説、911同時多発テロ陰謀論、ユダヤ人の起源とカザール帝国、ビートルズのサブリミナル・コントロールなど、快調に弁舌が疾走する。読んでて実に面白いが、これまた学問かと言われると首をかしげるところあり。

水生人類説部分は、「人類の起源論争〜アクア説はなぜ異端なのか」の過去日記にも書いたエレイン・モーガンの著作からの受け売りだし、911陰謀説も、これまたあれこれ同工異曲のトンデモ本がたくさん出ている。ユダヤ人起源の話はどこからか知らないが、サブリミナル・コントロールは、「メディア・セックス」に書いてあったことの使いまわしのような。

経済学、文化人類学、生物学などの学際的知識を総合して新たな学問の地平と人間の生き方を提唱する。そう言うと聞こえはよいが、そもそもネタ本にしてるのが、どこの本屋でも売ってる一般書、あるいはトンデモ本なのだから、総合してもそもそも床屋談義のような結論しか出てこないような。そういえば、法学、経済学、数学と、やたら博覧強記な小室直樹が、自分の哲学語りだすととたんにバカになるのとある意味似ているかもしれない。

「単純な陰謀史観に基づいているわけではない」と本人は随所で用心深く繰り返すのだが、本人がそう繰り返したからといって、トンデモ陰謀史観に基づいてないとは言えない訳で。

911陰謀説については、先日、The 9/11 Report読んだので記憶が新たなのだが、この部分の記述には、「P.144 ボーイング社はエアバス受注に成功したのである」(エアバスは機種の名前ではなくボーイングのライバル会社)とか、「P.151 ハイジャックされたジャンボジェット機がつっこんだ」(WTCに突っ込んだのは、ジャンボジェットではなくB767)など、どこから転記したのかお粗末な間違いも目立つ。ペンタゴンに突入したAA77便や 墜落したUA93便についても、陰謀説を取るトンデモ本をウ飲みにして、あれこれ謎を記述しているのだが、これについても直近の調査ではすべて説明がついている事である。

ユダヤ人起源やらサブリミナルなど、他の部分まで調べて細かい事をチェックする暇はないが、911陰謀説部分だけ書き飛ばした風もないから、信憑性については、おしなべて同じレベルではなかろうか。つまらん事は間違えても大事な事は間違えてないとはあんまり思えないのだが。

全般に、思いつきで書き飛ばしたようにしか思えないが、真偽を問わない読み物としては抜群に面白い。この人の著作に根強いファンがいるのも頷ける気がする。そして最後に著者が主張する、「今後ヒトが生き延びうる最後の方向」。この部分は、おそらく大真面目で書いたように推測するが、逆にそれがこの本の一種の救いか。著者の結論に簡単に同意する訳には行かないが、ふざけて言ってるのではなく真面目に主張しているのなら、本が面白かったから許そうという気になる。本人が聞くと「違うんだ、このバカ!」と怒るかもしれないが、エンターテインメントとして極めて優れたトンデモ陰謀史観本。そんな風に感じたのであった。