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2003/02/08 寿司日記番外:フジタ水産、藤田さんからのマグロメール

ちょっと前に、「しみづ」のマグロはいつも素晴らしい。築地の「フジタ水産」という仲卸から買っている、とこの日記に書いたところ、当の藤田社長からメールを頂いた。

「フジタ水産」(←いきなり声が出るので、会社でクリックするならご注意を。はは)は、オブラ2002年12月号のマグロ特集にも大きく紹介された。「次郎よこはま店」の親方、水谷氏が、「店の看板を預けるにふさわしい」「社長は若いが情報通で勉強家」と、全面的に信頼している気鋭のマグロ問屋である。

この藤田さんから頂いた、マグロについてのメールが実に面白い。ご本人の許可も得たので、現在までに聞いた概略だけをここでご紹介させていただこう。

お店は、築地で3代続く仲卸。藤田さんは3代目の社長である。おじいさんの代では、アジ、サバを扱う「小物屋」だったが、お父さんの代にマグロなどの「大物」も扱う店に。しかし、バチ、キハダなどの比較的安価な赤身しか扱ってなかったのだという。

3代目の藤田さんが、国産本マグロの最高級品を扱いだしたのは、ほんの偶然と意地からだった。好奇心旺盛な藤田さんが、セリ場で生の最高級本マグロを触ったとたん、大勢のマグロ屋から罵倒を浴びせらた。安い魚しか扱ってない「駄物屋」が何触ってやがる、という訳である。築地市場でも扱う品により店の格みたいなものがあって、国産本マグロの超高級品を独占して仕切ってるのは昔からの限られた老舗のみ。

屈辱に発奮した藤田さんは、国産最高級マグロのセリに参加する。「駄物屋」と呼ばれても、築地での営業権があるのだから、競り落とすことはできるのだ。「上物師」(高級品を扱う仲買人)の真似をして意地で競り落としてきた最高級マグロは、販売ルートも無いし、さっぱり売れず大赤字。しかも、不思議なことに、大して旨くないのであった。

昔、親父が買ってたマグロは、もっと安かったが、しかし美味かった。過去の記憶をたどり、寿司の名店を巡り、思考錯誤でセリに参加するうちに、藤田さんは、「他のマグロ屋とはまったく異なもの」と称する考えに行き着く。

それは、例えば、老舗のマグロ屋が昔から最高と信奉する延縄のマグロは、色の冴えはすばらしく色持ちもよいが、ちっとも美味くない。リスクがあっても他の漁法のマグロに、ずっと美味いものがあるという独特の考えであった。

しかし、超高級の生マグロを扱う仲卸というのは古くて狭い世界であり、新参の藤田さんが固有の考えで、自分が美味いと思う本マグロを買い付けるようになると、散々なバッシングとイジメを受けた。セリを牛耳るのは、10軒ほどしかない老舗マグロ問屋の古参親父達。フジタ水産が買いつけようとするマグロは、必要がなくてもセリかけてくる。セリ人には、「フジタには落とすな」と圧力をかける。

しかし、孤軍奮闘する藤田さんを見かねて、応援してくれるセリ人も現れた。そして、イジメの嵐が続く中、ある事件がおきる。2週間ほど国産本マグロの入荷がなかった市場に、久々に2本入荷した本マグロ。これだと思った1本を、藤田さんはたいへんな高値で競り落とす。結果的には大損をしたが、この日、古参の親父達も諦め、藤田さんのことを認める。「こいつは本気だ」と。翌日からは、むこうから声をかけてくるようになり、セリ人も手の平を返してきたのだという。



数通頂いた「マグロメール」を私の文責で編集したのだが、いやはや、実に面白い。真実にしかない「ドラマ」の重さである。本屋には、寿司関係や飲食関係の本が溢れているが、築地市場の内幕を書いたものはほとんど無い。「築地魚河岸猫の手修行」てのはあったが、これは女性のアマチュアが書いた本だ。マグロ仲卸の一代記書かれたら、ずいぶんと評判になると思うけどなあ。お店のページで連載なんてどうだろうか。もっとも、ご同業の人が読むと怒るかもしれないが。ははは。