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2002/09/19 寿司日記 銀座「寿司幸本店」

仕事のほうは、ちょっと忙中閑有り。昨日の夜は、銀座、数奇屋通りの、「寿司幸本店」を訪問。「なか田」、「久兵衛」と並び評される、銀座の高級寿司店だが、江戸前寿司の名店というより、高価な接待専門店という印象があり、今まで訪問したことはなかった。

予約時に電話を取ったのは、物腰は丁寧だが、いかにもオロオロ頼りなさげな女性。なんでこんな女性を使ってるのかといぶかしんだ。店に入ると、かなり年配のおばあちゃんが狭い帳場にチョコンと座っている。電話取ったのはこの女性だが、「おかみさん」と呼ばれているから、先代の親方の奥さんに違いない。まあ、辞めさせるわけにはゆかんよなあ。はは。

店はすでに代変りして、今の店を切り盛りしている40代の親方は、数えて4代目なのだそうだ。1階カウンタに案内される。飲み屋のおネエチャンと思しき女性を連れた、なんだか横柄な口聞く常連がカウンタに。金はあるがタチはよくない、そういう客が多いような雰囲気あり。

寿司屋では、普段は、日本酒派だが、本によるこの店の紹介では、出てくるのはワインの写真ばかり。というわけで、まず赤ワインを一杯注文。イタリアのだと言ってたが、銘柄は聞き忘れた。つまみはおまかせで適当に。

ツマミはいづれも、2〜3口で食べきれるほどの量が、手塩皿風の小皿に入れて供される。まずは白エビ。軽く醤油がかけてある。金沢でも食べたが、鮮度よし。次に出てきたのは、小口に切ったアジ。これも、素材は素晴らしい。薬味が多用してあるのも特徴だ。

しかし、生の魚介類は、どうも赤ワインだと、生臭さが増幅されて合わないような気がする。やはり慣れたのがよいなということで、赤ワインは1杯飲んだだけで退散。岩手の大吟醸酒に切替。

ヒラメを軽く昆布〆にしたもの。今年は、ヒラメがよくなってきたとは職人の弁。蒸しアワビ。ちょっとツメが塗ってあるが、これはなかなか結構。煮物だと、赤ワインでもよかったかなあ。次にはカジキマグロの照り焼き。これも、この店の定番のツマミらしいが、これまた赤ワインに合いそうだ。こういうのを先に出してもらいたかった。すでに日本酒に切り替えて、時すでに遅し。ははは。

ここで刺身。カツオ、エビ(塩で)、シマアジが一皿に。どれも量はそんなにない。カツオは、新鮮で、実にアッサリした身。悪くないが、「しみづ」の藁で皮目を焼いた戻りカツオのほうがずっと美味い気がする。シマアジも、上品な脂の天然ものだが、これも「しみづ」のほうが好きだな。

一通りツマミが出たので、お茶に切り替えて、握りに移行。

トロの炙り。脂の乗ったマグロは、火を通すと牛肉と見分けがつかない。脂がまさしく溶けており、実に美味い。マグロのヅケ。これもネットリしてマグロの美味み十分。寿司は、1貫づつ、小さな平皿に置かれる。

コハダは、2枚づけ。まだこんな小さいのがあるとは驚きだが、〆かたはごく軽い。シイタケの握り。これも、この店の定番らしいが、まあ、シイタケの味だなという寿司。煮ハマグリ。まだ時期が早いか、ちょっと身が痩せている。

アナゴは、半分を塩で、半分をツメで。身は厚く、フカフカして口当たりは柔らかい。しかし、鶴八系のトロけるような煮上げに慣れていると、ちょっとイマイチという気がするんだなあ。

最後にカンピョウ巻き。味付けは、やや薄く、軽く醤油つけてちょうどよいという感じ。まあ、今はこういう味が普通で、しみづや鶴八、新富寿司のように醤油が要らないほどカンピョウにしっかり味がついてるのは、むしろ古式なのかもしれない。シャリはすっきりしているが、やや水分が多い気がする。もっともこういうシャリを好きな人は好きだろう。これで、1名様2万円也。

つけ場に立つ職人は、なかなか愛想がよい。種札もないが、見計らって、タイミングよく、おまかせでツマミも寿司も次々と出てくる。客の注文や冗談にも気軽に応じるし、「握りをおまかせで」と頼むと、「とりあえず4個くらい握ってみて、お腹の具合を見ましょうか」、と大変に親切。

寿司種について言うと、水準はもちろん高い。しかし、値段のワリには、これはという感動が薄い。そういう点では、「しみづ」、「あら輝」、「銀座小笹」、「與兵衛」なんかのほうが、個人的にはずっと好きだ。もっとも、最初から「寿司幸」に慣れた人なら、「寿司幸」が一番いいのだろう。寿司というのは、そういう不思議な食べ物だ。

しかし、職人はきちんと教育されており、お酒飲みながらの居心地は実によい。寿司の知識がなく、味にうるさくなくても、お金さえあればちゃんと楽しめる。客に無用な緊張を強いる「次郎」とは、そういう面が違う。言わば、寿司通ではない人を接待するのに好適な店というか。「なか田」、「久兵衛」なんかも、多分同じ路線なんだろうなあ。