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2007/03/29 「ラスト・キング・オブ・スコットランド」

日本滞在中の土曜に映画館で見た。本年度、アカデミー主演男優賞映画。機内で見た映画も何本かあるので、ボチボチと映画編を続けるか。

医師免許を取ったばかりのスコットランド人の若者が、国際協力の医師としてアフリカに渡る。到着したウガンダではちょうどクーデターが起こり、軍人が大統領に就任したばかり。彼はほんの偶然からこの新大統領の知遇を得、侍医兼特権的側近として重用される。そして、この出会いは若者を、独裁者の狂気に翻弄される恐ろしい運命へと導いてゆくことになる。

同名の小説が原作であるが、「この映画のストーリーは事実に基く」と最初にキャプションが出る。そう、この大統領は実在していた。独裁者と化し、政敵、側近、そして何十万人の国民を虐殺し、「人食い」と称された、ウガンダのイディ・アミン大統領である。

このアミン大統領は、一度アントニオ猪木と異種格闘技戦をやるとの話も持ち上がったから(実現前に彼は政変で国を追われるのだが)アメリカよりも日本のほうが一般的知名度は高いかもしれない。

クーデターで政権を奪取した軍隊指導者は、当初、陽気に民衆と歌い踊り、新たなヒーローとして大衆的人気を博する。しかし権力を掌握すると、国家を私物化し、財政を破綻させ、敵対者を殺戮する独裁者となる。独裁者の政権奪取の裏に潜む旧宗主国の影、しかし、政権が暴走し利益に反するようになると、旧宗主国はこの独裁者の排除を検討し始める。

ウガンダの話ではあるのだが、この映画が印象的に描いた政治的悲喜劇は、北に収奪され続けるアフリカのいたるところで繰り返されている。無知と貧困、そして政治的不安定は本当にアフリカ自身の責任か。映画を見て去来するのは、そんな問いだ。

アカデミー主演男優賞受賞、フォレスト・ウィテカーは確かにハマリ役ではあり、好演なのだが、独裁者イディ・アミンがどんな人物であったかについて幾許かの予備知識があるなら、その演技はイマジネーションの範囲を超えない無難なもの。極端な驚きはない。「ロード・オブ・ウォー」にも同じようなアフリカの独裁者が出てきたなと思い出したりして。むしろインパクトを感じるのは、映画のラスト、ほんの数ショットだけでてくる、本物のイディ・アミン大統領の映像。

しかし、映画全体を通じて、この作品のアミン大統領像に効果的な陰影を与えているのは、やはり回りの脇役の存在。冒険を求めてアフリカに渡り、アミンとの邂逅により運命の泥沼に陥って行く白人の若い医師。若いが故の尊大で無分別な狂気と、心の奥底に潜む白人としての優越感。感情移入はできないのだが、彼はアフリカと欧米とのかかわりを象徴する、一種の狂言まわしの役割を果たしている。そして、本国から遠く離れた赴任地で疲れ果て、シニカルで虚無的な雰囲気を漂わせる英国代表部のエージェント。「CIAは何をしていた?」を思い出した。