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2006/03/20 「シリアナ」

渡航の手続き大部分は完了。あとは引越し関係。部屋もそろそろ片付けに入らないといけないのだが、なかなかエンジンかからず。それどころか日曜午後は、映画など観に行ってしまう。こういうのは何て言ったっけ、そう現実逃避だ。はは。

映画は「シリアナ」。公開して間もないはずだが、観客は少ない。

「Syriana」とは聞いたことのない単語だが、IMDBのTriviaでは、"Syriana is a term used by Washington think-tanks to describe a hypothetical re-shaping of the Middle East"と出てくる。ワシントンのシンクタンクが使った、中東を再編する仮想国家の名前なんだと。

CIA、政治家、弁護士事務所、中東の王族、イスラムのテロリスト等が石油利権を巡って交錯する一種の政治スリラー。ずっと前に読んだ「世界石油戦争 燃え上がる歴史のパイプライン」を思い出した。

現代文明を支える石油という資源。その大半を産する中東諸国は、限られた王様達だけがとんでもなく金持ちだが、国としては何の進歩もない後進国。これは中東の王様達が揃いも揃って愚かなせいなのか。この本は、石油利権を牛耳る欧米エスタブリッシュメントが自分達の利益が極大化するように緻密に戦略を練って作り上げたシナリオを明らかにする。

巨万の富を得ても王様は使い切れない。ロールスロイスや自家用ジェットや戦闘機を何百と買った金はすべて欧米に還流する。ビルや投資組合への投資、余った金の預金口座もすべて欧米に向かう。

産油国の王様は、確かに想像もつかない金を持ってるが、逆に考えれば徹底的な搾取の構図の上にただ神輿として担がれているにすぎない。自らの国の資源をいともたやすく売り渡し、国の将来を摘み取っている、石油が眠る砂漠に君臨する哀れな裸の王様達。植民地支配の長い歴史を持つ欧米エスタブリッシュメントの収奪にかける悪知恵がいかに凄まじく恐ろしいか。

この映画、「シリアナ」の登場人物で印象的なのは、欧米で教育を受けた聡明な産油国の王子。彼は石油で得た金を自国に投資し教育水準を上げ、女性に参政権を与え民主化し、石油で得た利益を自国の繁栄のために使うことを構想する。しかし、それは欧米社会で石油利権に群がる全ての人間にとって、まったく歓迎できることではない。この構図が最初から承知されていないと、めまぐるしく場面を変えて疾走するこの映画は実に理解困難なものになるだろう。

貧乏なパキスタン出稼ぎの若者をテロリストに仕立てるイスラムのコミュニティも、映画的には印象的に成立している。しかし、あれはアメリカ的常識が想像したものに過ぎないのではという気も。イスラムを誰が本当に理解しているだろうか。宗教的源泉では、もちろんそれはユダヤ・キリスト教に近いのではあって、西欧のほうが近いといえばその通りではあるのだが。