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2005/09/25 シャーリーズ・セロンの「モンスター」

先週末に購入したDVD、「モンスター」を見た。モデル出身、美貌のシャーリーズ・セロンが汚れ役に挑んだことで話題となり、アカデミー主演女優賞を獲得した映画。

1980年代のフロリダ。13歳で父親の友人にレイプされ、貧困と虐待にまみれて育った主人公は、路傍で客を拾い売春を繰り返すことしか生計の道がなかった。彼女は生活に疲れきって入ったバーで、同じく人生に疎外感を抱く同性愛の少女と運命的な出会いをし、この少女を愛する。そして、預けられていた家を出たこの少女との逃避行。車、住む場所、そして新天地へ移住する資金を得るため、アイリーンはまたストリートでの売春に戻り、ついには金を求めて客を次々に射殺し始める。映画冒頭に「実話に基づく」とキャプションが出るが、これは実際にアメリカ初の「女性連続殺人鬼」と呼ばれたアイリーン・ウォーノスの生涯を描いた映画なのだ。内容は実に重たく暗い。

監督は女性のパティ・ジェンキンス。実際に刑務所で死刑執行前のアイリーン・ウォーノスに何度も面会し、彼女の書いた手紙も読ませてもらったらしい。低予算、28日で製作された映画だが、主演のセロン自身もプロデューサーの一人として名前を連ねるほどこの映画に入れ込んでいる。

セロンはこの役を演じるために13キロ体重を増やしたそうだが、メイクアップも、まさに特殊効果と読んでもよいレベル。不ぞろいの前歯はマウスピースだし、肌も汚くメイクアップ。眉もおそらくオリジナルではない。こうまで容貌が変わるとまるで「エレファントマン」のような。しかし、演技も素晴らしい。荒涼とした悲惨な運命を生きた異形の女性を、実に印象的に演じている。

"People always look down their noses at hookers. Never give you a chance, because they think you took the easy way out, when no one could imagine the willpower it took to do what we do. Walking the streets, night after night, taking the hits and still getting back up."

みんな売春婦を鼻で見下すんだ。一番安易な道を選んだ奴として無視するだけ。でも、誰ひとり想像できないだろうけど、売春で生きるには意志の力がいる。毎晩毎晩通りを歩き、ひどい目にあっても、また立ち上がって歩き出すってことには。(IMDb)
主人公の独白は実に悲痛で胸を打つ。理解できるなどと綺麗ごとを言うつもりはない。自由とチャンスの国アメリカの、輝く成功の光の影に横たわる闇は、理解不可能なほど実に深く暗い。拳銃をバッグに入れ、フリーウェイの路傍でヒッチハイクを装って車を止め売春を持ちかけてくる女。留学、駐在でアメリカに住んだとしても、こんなアメリカの暗部に触れたことがある日本人はどれだけいるだろう。

友人の13歳の娘をレイプし続ける男。行為の時に「ダディ」と呼んでくれと頼む客。縛り上げて暴力をふるう変態。主人公は、「モンスター」と呼ばれたが、この映画が我々につきつけるのは、おそらく「Who's the real Monster?」という問いだ。

クリスティーナ・リッチは、主人公を堕落させる小悪魔、レズビアンの少女セルビー役。これまた凄まじい役だが、実に魅力的に成立しているのはリッチの演技力が素晴らしいから。最後に主人公を裏切るセルビーと、しかしこれを受け止め、許すアイリーン。彼女が凄惨な人生でたったひとつ見つけ、そしてそれを維持するために凄まじい代償を払い、そしてあっけなく失った愛。アメリカのやり切れない暗部を描きながら、一種の切ない悲恋ストーリーとしても成立しているところが映画として優れている。

映画冒頭、主人公の少女時代をふりかえるフラッシュバックも実に印象的。音楽もまたよい。ジャーニーのスティーブ・ペリーがアドバイザーなのだそうだが、実際の事件が起こった80年代の雰囲気をよく伝えているのだ。

オーディオ・コメンタリー版では、シャーリーズ・セロンが監督と共にこの役への思い入れを随所で語り、単なるバービー人形ではないことをはっきり示している。セロンは16歳の若さでパリでモデルとしてデビュー。美貌が評判になりアメリカで女優として大成功した。この役への執着が、きらびやかなスポットライトを浴びるステージも路傍の娼婦も、本人の持つ何物かを切り売りする商売としては同じ側にあるという冷徹な洞察が本人にあったのだとしたら、これまた考えさせられるような深い話ではあるのだが。

ネットで調べると、実際のアイリーンを取材したドキュメンタリー、「アイリーン 「モンスター」と呼ばれた女」も発売されている。さっそくAmazonで注文。