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2004/12/26 「あげまん」〜はい、おとうさんの好きなスルスル〜!

土曜日に、「伊丹十三DVDコレクション ガンバルみんなBOX 」到着。伊丹十三の映画作品はこれが初のDVD化ではないだろうか。「お葬式」、「タンポポ」、「あげまん」、「大病人」、「静かな生活」に特典映像DVDという構成。ずいぶんと凝った豪華パッケージ。

これは、Amazonでずっと前に注文していたのだが、発売日を過ぎても届かない。配送状況を検索してみると、同時注文したもうひとつの「たたかう女」ボックスの発売が来年2月になっており、同梱して来年2月発送予定となっていた。手動で同梱指示を解除したら翌日に配送されたという訳なのだが、納期が何ヶ月も違う注文を同梱するのがデフォルトというのもちょっと不親切な設定である。

伊丹十三の最高傑作は、やはり「お葬式」だと思う。派手さはないが、端正に作りこまれた、これこそが映画だという美しい空間。脚本もよく練られ、俳優も素晴らしい。

しかし、昨日の午後は、1990年の公開時に劇場で見た後は、多分一度も見ていない「あげまん」を懐かしく鑑賞。レンタルVHSは出てたろうが、TVではあんまり放送されたことがないのでは。軽いコメディとはいえ確かに芸者の世界が舞台であるから、茶の間で見るにはあまりふさわしくなかろう。

付き合うと男の運気を上げるという女。政界の大立者も黒幕も、まるで子供のようになってその理想の女を追い求める。男が女に抱くprimitiveであまりにnaiveな幻想と、幾つになっても抜けない幼児性。登場する男達はみな滑稽で哀れ。そう、これは我々現実の男性の戯画なのである。

伊丹十三の妻、宮本信子が演じるこれ以上無いという理想の女。明るく、無邪気で、世話好きな美人。恋人と母を同時に体現し、男を幸せにして運気を上昇させる女。しかし、そういう女が実在するというのは、やはり愚かな男の身勝手な幻想に過ぎないと映画全体を総括することもできるだろう。いわば、「白馬に乗った王子様幻想」の哀れな男性版。男であるということも、これでなかなかつまらんものである。

前作が当たった後だけに、銀行頭取室やナヨコの着物など金のかかった豪華な仕上がり。脚本もよく練られて、人物像のエッジが鋭く立ち上がっている。伊丹作品はどれもそうだが、細かい設定やセリフが優れている。劇場で見た時、「はい、おとうさんの好きなスルスル〜!」というセリフにはひっくり返って笑ったが、DVDで再見してもやはり印象的。政財界のフィクサー大倉がナヨコの前でいかに心を開ききった子供に戻っていたかを、覗き見するかのように観客にたった一言で了解させる力を持っている。

俳優にして監督。そしてエッセイストにして優れたインタビュアーでもあった多才な伊丹監督の鋭い人間観察眼が、なにかの実体験から拾い上げたセリフなのだろう。人間に対する深く鋭い洞察、そして研ぎ澄まされた感性。しかし研ぎ澄まされたものは、何であれ脆い。7年前の突然の自殺。その真相は、他人が知るよしもないが、物が見え過ぎた故の不幸といったものを感じるのも確かなのであった。