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2004/02/08 「ミスティック・リバー」

午後から銀座に出て「ミスティック・リバー」 を見る。クリント・イーストウッド監督作品。ちょっと前の週刊文春で、小林信彦がこの映画を「今年最高の映画、正統的な傑作」と絶賛している。

20数年前3人の少年を巻きこんだ猟奇的な事件。その後、中年の男性となりそれぞれの人生を送る男達の人生は、ひとつの殺人事件を背景に再び複雑に交錯する。ショーン・ペン ティム・ロビンス、ケビン・ベーコンと演技派を揃えた俳優陣に対するイーストウッドの演出はあくまで抑制的だが、画面には陰鬱で重たい映画的緊張が満ちあふれ、最後まで飽きさせない。

ショーン・ペンの奥さん役、 ローラ・リニーは、どこかで見たと思ったら、「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル」に出演していたのであった。

映画はほぼ原作に忠実に作られているのだそうだが、サスペンスとしても人間ドラマとしてもなかなかよくできている。東海岸、ボストンのあまり裕福でない住民が住む地域を背景に、現代アメリカの持つ暗黒が冷静に描かれて行く。ショーン・ペンが背中に背負った十字架が暗示的。ティム・ロビンスも好演。

商業的に成功するかというと難しい映画かもしれない。前向きなメッセージや救いによるカタルシスが最後に用意されているわけではない。殺人や裏切りは我々の前にただ投げ出されるだけ。しかし、登場人物の心の暗黒を丹念に描き出すひとつひとつのショットが実に美しい。事件後の20数年に何があったか、画面に描かずに観客に納得させる優れた演出。ふとした心の動きや性格の陰影が実にリアルに迫ってくる。イーストウッドは単なるダーティー・ハリーではなく、才能ある監督だということがよく分かる映画。

ただ、ちょっと不思議なのは音楽にもイーストウッドの名前が単体でクレジットされていること。オーケストラによる演奏についても、本当にイーストウッドがスコアを書き下ろしたのだろうか。だとしたらこれまた凄い話で、映画俳優に監督の才能があるということ以上にそのほうが驚きという気がするが。