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2002/12/23 「タクシードライバー」

セール中だったので購入した「タクシードライバー」をDVDで見る。昔、レンタルビデオで見た記憶はあるのだが、真剣に見たのは多分初めて。

「映画の見方がわかる本」(町山智浩/洋泉社)という、ややゴーマンな題名の本によると、脚本を書いたポール・シュレーダーは、大統領候補ウォレスを狙撃した犯人ブレマーの日記を読み、それにヒントを得てこのストーリーを書いたらしい。

出版されたブレマーの日記に描かれていた孤独は、世間すべてからの疎外感を感じていたシュレーダーの境遇とまったく同じであった。小さく、ひ弱で、劣等生で、学生時代友人が一人もできなかったブレマーは、世間の注目を浴びるだけのために人を狙撃することを決意する。標的になったのは、たまたま大統領戦に立候補していたアラバマ州知事、ジョージ・ウォレス。

レーガン大統領狙撃犯や、ジョン・レノン狙撃犯、そして数え切れない大量殺人鬼を生み続ける国、アメリカ。チャンスの国、自由の国として、一夜にして成功するアメリカン・ドリームを賞賛するアメリカの光と夢が輝くほど、社会から隔絶し、誰からも愛されない疎外感に人格すら崩壊するモンスターが生まれる闇も果てしなく広がってゆく。

この映画で、ロバート・デ・ニーロ演じるタクシードライバー、トラヴィスも、誰からも受け入れられず、凄まじいまでの孤独に悩むモンスター。ブレマーと同じく大統領選候補者の暗殺に失敗して、たまたま憎悪の先が向いたのは、12歳の娼婦をあやつるジゴロと売春をつかさどるマフィア達。野放図に殺戮した相手がアウトローだっただけで、トラヴィスは一時の英雄となる。殺害したのが大統領候補であったなら、刑務所に幽閉され一般社会から隔絶されたのはトラヴィスのほうであったろう。ジゴロすら、自らあやつる娼婦には愛されているのに、トラヴィスを愛する人は誰もいないという砂を噛むような孤独。

この映画の監督、マーティン・スコセッシは、黒人と浮気している自分の妻を殺すという執念にとりつかれた男を自ら演じているのだが、彼もまた、コンプレックスと疎外感に悩んだ男であったらしい。大都会の闇、凄まじいまでの孤独、貧困と売春、人種差別と狂気。それらすべてを深い夜の闇に溶かしこんで行くようなサックスの響き。全編を通じて流れるテーマ曲も印象的。

タクシードライバーとして、再びニューヨークの夜の闇に沈み込んで行くトラヴィス。映画は、その心中に、また必ず狂気が育ち始めているに違いないという恐ろしい予感を持って終わる。前に見た時には、これほど救いようのない虚無感を与えるラストには思えなかったが、人間の印象というのも不思議なものである。アンチ・ヒーロー、アンチ・ハッピーエンド。ある意味70年代を代表する傑作である。デ・ニーロの演技も鬼気迫る出来映えで凄い。メイキング見て、あのモヒカン頭がカツラであったと知ってビックリした。