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1998/09/23 『ニクソン』

さて、昨日、オリバー・ストーン監督の『ニクソン』の事を書いた時に、一部不明な点があったので、今日、ビデオを再見してたら、昨日の日記の記述に間違いを発見。あの映画の中では、ニクソンは軍隊の使用を示唆してない。どうも記憶違いだったようだ。

すでに窮地に追い込まれて、明日『スモーキング・ガン』の録音テープを議会に提出しなければならない、と側近が報告に来る。大統領弾劾の前に辞任を勧める側近に、疲れきったニクソンが、「他に策はないのか」と聞いた時に、「You have the Army. Lincoln used them」(国軍の指揮権を発動しますか。リンカーンはそうしましたが)、と側近のほうが示唆するのだった。

どうもその直前の、録音テープの記録を作る時に、自分の使った汚い言葉を全部削除しろと錯乱するニクソンとごっちゃになってしまったようだ。ニクソン元大統領には深くお詫びいたします。って、もう亡くなってるけどねえ。

しかし、久しぶりにこのビデオを見たけど、アメリカの大統領がいかに孤独な職かって事がよく分かる。カリフォルニアの貧農に生まれ、宗教心篤い厳格な両親の元で育ったニクソンは、徒手空拳で、自分の努力と才覚だけで大統領にまで上り詰めた男だが、その過程では、色々と権謀術数をこらした世渡りを余儀なくされたに違いない。そのせいか、「Tricky Dick」(信用ならないディック)という不名誉なあだ名は彼に終生ついてまわった。

もとはと言えば、彼の大統領としての生命にとどめを刺したホワイトハウス内の会話録音テープにしても、彼自身が命令してすべての電話と執務室に隠しマイクを設置したのだから、側近と言えども、誰をも信じる事のできなかった彼自身の懐疑心が、結局自分の首を締める事になったんだなあ。

メディアにも不人気で、大衆にも見放され、この映画の最後のほうで、辞任を決めたニクソンは、ホワイトハウスの壁にかかっているJFK(ケネディ大統領)の絵を見ながら、こうつぶやく。「人々はあんたの姿に理想を見たが、この俺には、自分達の現実しか重ね合わせようとしなかった」 誰よりも愛される事を望みながら、誰からも結局は愛される事のなかった大統領。ニクソンの哀れがよくでた映画だった。

もっとも、オリバー・ストーンはこの映画で、ニクソンがケネディ暗殺に、かなりかかわりがあったような場面をあちこちに挿入してるので、ニクソンの遺族がカンカンになって、公開当時はアメリカでは大変な物議をかもした。しかし、女性問題の偽証と司法妨害で大統領を弾劾されるより、ウォーターゲートのような謎めいた政治的スキャンダルで辞任するほうが、まだ政治家らしくていいような気もするなあ。クリントンの場合、映画にしたら映倫の検査が通らないかもしれない。


1998/09/22 クリントンと硝煙の残る銃

昨夜は、10時過ぎから、CS放送でクリントンの証言ビデオを放映していた。CNNもFOXも同じ時間にスタート、どうも全米でタイミングを合わせていた様子。途中のブレイクまで一緒だ。CNNは同時通訳の女性の声がうるさくて本人の声が聞こえないので、英語だけのFOXのほうを見ているが、結局最後まで付き合ってしまった。

で、肝心のクリントン証言だが、やはりあそこまでやるのは個人的にはクリントンも気の毒な気がした。彼は非常に慎重に言葉を選んで答弁しており、認めるとまずい事は激烈に反論してはいたが、一個所だけ、言葉に詰まってうつむいて、しばし沈黙した個所がある。それは、とてもここに訳す気がしないような性行為の詳細に関する質問。ああいうものを全国民に放映するってのは、ちょっと人間の尊厳を踏みにじるような気もした。日本のCNNでは、あれを女性通訳がずっと同時通訳してたんだろうか。

もっとも内容的には、スター独立検察官が公表した報告書以上の新しい事実があるわけではない。FOXニュースのコメンテーターは、放映終了後に、「I did not see any smoking gun」 と言った。「Smoking gun」とは文字通り硝煙を上げている拳銃、すなわち、むきだしの犯罪の証拠、『動かぬ証拠』といった意味。

この言葉はもともとニクソンのウオーターゲート事件で使われた。ニクソンが渋りに渋って調査委員会に最後に提出した3本のホワイトハウスの会話録音テープに、明らかにニクソンがウォーターゲートホテルへの侵入の隠蔽を指示した会話が録音されており、この3本のテープが「スモーキング・ガン」と呼ばれたんだそうだ。ニクソンの弾劾に反対していた共和党議員も、これを聞いて観念して、ニクソンの弾劾に賛成すると翻意したほどの決定的な証拠だった。

もっとも正式の弾劾手続きにうつる前にニクソンは辞任したんだなあ。アメリカの歴史上、大統領が辞任するのはニクソンが初めてだったらしい。オリバー・ストーン監督の映画『ニクソン』には、辞任を受け入れず、国軍を動かして戒厳令を引こうとするニクソンと、それでは国が内戦状態になる、と驚愕して、狂乱した彼を引き止める側近の姿が描かれている。もっともこれが真実かどうかは歴史の闇の中だ。オリバー・ストーン監督の映画はあくまでオリバー・ストーン史観に基づいたフィクションだから。