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1997/12/21 伊丹十三氏のエッセイ

伊丹十三監督の飛び降り自殺の報を朝のTVで聞いてショックを受ける。私にとっては、伊丹十三氏は、映画監督と言うより大好きなエッセイストの一人だった。「女たちよ」に始まって、「ヨーロッパ退屈日記」「小説より奇なり」「男たちよ、女たちよ」等など、大学生や社会人の最初の頃によく読んだ。あちこち引越ししたせいで、本そのものは散逸してしまったが。

おそらく、文庫でまた再版が出るのだろうが、特に他者をインタビューして構成したエッセイや対談仕立てのエッセイには独特の他人の話を掘り出す才能と言うものがあって、「お葬式」や「マルサの女」なんて言う映画も、基本的にその取材能力がシナリオには大いに役立っていたはずだ。日本の薄っぺらな輸入文化を辛辣に批判する視点も好きだったな。

俳優でありながら、本人自身が大変な映画好きだったせいもあって、監督デビューの「お葬式」は典型的な映画の文法を踏まえた素晴らしい作品だったと思う。個人的には、「マルサの女」以降は、やはり力を失ったという印象は否めないのだが。

しかし、この人の細部に凝るキャステイングは、それでも素晴らしく、「大病人」だったか、三国連太郎扮する主人公が三途の川の手前まで行って、御先祖様に会う場面の御先祖さま役の老人達は素晴らしかった。あれが昔の日本人の顔だ。あちこちの古い家の鴨居の上なんかに飾ってある、亡くなった御先祖さまの古ぼけた写真からそのまま出てきたよう。いったい何人も、どこから探して来たのだろう。未見の人はこのシーンだけでも見る価値があると思うけどなあ。

近年は、精神分析なんかにも凝っていて、心理学者の岸田秀とも共著で、本当の自分を知る、なんかのテーマで本を出したり、対談をやったりしていたのだが、写真週間誌の不倫報道程度で、自分の心を制御できなくなってしまったとは、あまりにも信じ難い気がする。それとも人間の心と言うのは、やはりそんなにも壊れやすく、脆いものだと言う事なんだろうか。享年64歳。ご冥福をお祈りします。