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2006/11/06 カザフスタンから「Borat」が行く

Boratという映画がこちらでは土曜日に封切られたのだが、マイナーに終わるという観測を打ち破り、前週いきなりの興行収入トップ。$26.4 millionを稼いだのだという。

いったいどんな映画なのかね。興味があったので、YouTubeであれこれ検索。

訛りの強い英語を話すカザフスタンのジャーナリスト「Borat」が、初めて欧米の社会を訪れて、様々な社会を体当たりで取材するという、一種のドキュメンタリー。しかし、このカザフスタン出身というのは実は「設定」であり、この人物は、Sacha Baron Cohenというユダヤ系英国人のコメディアンが演じているのだというからややこしい。この人騒がせなコメディアンの珍妙な行動に振り回されるのは、本当に主人公がカザフスタンから取材に来たと思ってる普通の人々。昔で言う「電波少年」風ドキュメントか。

この映画はまだ見ていないが、イギリスではもうかなりTV番組が放送され、熱狂的ファンがいるのか、YouTubeにもたくさんビデオがアップされている。昨日夜はこのビデオをチェックしだしたら止まらなくなってしまった。面白い。

この「Borat」のキャラクターがまた、一種異様で独特。無神経で欧米文化に触れたことのない田舎者であり、訛りの強い英語(もちろん演技でやってるわけだが)で無茶苦茶なことを言うのである。「あなたは選挙権あるの」と女性に問い、当たり前ですと言われると、「カザフスタンでは、神様の下はオトコ、その下が馬で、その下の下がオンナ」だとかたどたどしい英語で(ま、これも演技な訳だが)一生懸命に説明する。デート相手斡旋サービスでは、分かりづらい英語で、「どうやったらすぐセックスできますか」と問う。趣味はと聞かれると、「トイレの盗撮」と答える。

捨て犬センタでは、犬を抱きかかえて、どうやって食べたら一番美味いか係員に問い、係員に犬を取り上げられる。カントリー・ソング・バーでは、「ユダヤ人を井戸にn投げ落とせ」と熱唱(次第に全員が唱和するのが怖い)。ハンティングの取材では、「アメリカではインディアンを撃つのはもう違法になったって本当か」と問う。アメリカ南部の歴史センタで昔の手工業を実演している男には、「お前は奴隷か。いくらで買える?」と問う。

カザフスタンから来た田舎者と信じて相手して、こんな暴言やら珍妙な行動を、目を見開き口をポカンと開けて見つめるアメリカ人やイギリス人を見て、観客が笑うという趣向である。欧米人ならたとえ冗談でも決して受け入れられないような言動をわざと面前でやり、びっくりさせて人の反応を見る。憐憫や驚愕を浮かべながらも、最初は礼儀正しく彼を扱おうとする人々を克明に写すフィルムには、異文化に対する欧米の不寛容、異物に対する差別意識、そして幽かな嘲笑までも写しこまれている。

笑って忘れてしまえばそこまでだが、コメディタッチの映像の基調低音には、訛りの強い英語でアホな事ばかり言うカザフスタン人を演じるこのユダヤ系コメディアン自身の、自らを笑う社会に対する鏡のごとき嘲笑が響いているような気さえする。最初は単純に笑えるけれども、いつしかそのブラックさが少々気になり、不快感も感じる人はいるだろう。

「Borat」を演じるこのSacha Baron Cohenは、カザフスタン政府から正式に抗議されたらしい。それに対するビデオ回答も、ResponseとしてYoutubeに上げられている。
「私はそのコーエンと称するユダヤ人とは何の関係もなく、政府が彼を訴えることにまったく賛成です。私の故郷カザフスタンは、2003年の法律改正で、女性はバスの中を旅行でき、ホモは青い帽子をかぶらなくてもよくなり、結婚年齢は8歳に引き上げられ、どこにもまけない文明国となりました。みなさんも、天然資源に恵まれ、働き者で、中央アジアでも有数の清潔な売春婦のいる我が国へお越しください。」
と語っている。なんともブラックな毒にいやはや感心。この「Borat」は、日本にも輸入されるだろうか。影に潜む毒を解説せず、単なるドタバタとして売ったほうがよいのかもしれない。