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2006/07/03 サッカー中田英寿の「新しい自分探しの旅」

サッカー、中田英寿が現役引退表明。自分のWebページで発表というのも、なんだか昨今の芸能人のようだ。W杯フランス大会、そしてその後移籍したセリエAで活躍した時代には、確かに世界のどこに出してもひけを取らない選手であり、日本のサッカーにひとつの時代を刻み込んだ歴史的な選手であったと思う。29歳という年齢は、スポーツ選手の引退にはやや早い印象だが、まだ全盛期と同じ力でプレイできるなら、誰も引退など選択しない。おそらく本人が一番よく引き際を分かっているのでは。

ただ本人の引退メッセージ中、「プロサッカーという旅から卒業し“新たな自分”探しの旅に出たい」という部分には、やや妙な違和感を感じる。「自分探しの旅」というのは、なかなか耳ざわりのよい言葉。週刊誌や旅行誌などでも目にするし、実際の発言でも耳にする。ただ、どちらかというと、「癒し」と同様、女性がよく使う言葉という気がする。

「自分とは何か」という問いは、おそらく人生そのものを賭けて問い続けるべき深く重い問いである。探す旅に出たら、どこかでポンと「自分」に出会えるようなもんではないような気がするわけである。「自分」という唯一無二の存在に、希望も絶望も、過去も未来も、限界も超越も、全てが閉じ込められている。しかし「自分」を「他人」と取り替えるわけにはゆかない。「自分」という存在を「所与の条件」として、「自分」と「社会」との間に、なんらかの折り合いをつけてゆく努力こそが生きるということではないのか。探しに出かけずとも、「自分」は今ここにいる「自分」でしかないのではないか。そんな気がしてしかたない。

「自分探しの旅」とは、「いつか白馬に乗った王子様が迎えに来てくれる」という少女趣味な妄想と紙一重だというと言い過ぎだろうか。もっとも人は誰しも、それぞれの幻想に自由に生きる権利がある。そして、それを批判する権利は誰にもないのだが。

それにしても、持って生まれた才能と努力で、日本人のプロ・サッカー選手としては誰も達成したことのない成功を手にし、世界にも自分を証明してみせた男が、いまさら「引退して自分探し」ねえ。サッカーのフィールドで出会えなかった「新しい自分」に、彼はこれからの旅の途中で出会えるのだろうか。もちろん新しい船出の成功を心から祈りたいが。