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2003/11/21 新・旧・原作、「白い巨塔」雑感。

フジのドラマ「白い巨塔」は人気のようだ。「田宮二郎」、「財前五郎」、「里見」、「大河内教授」、「白い巨塔」などのキーワードで検索してこのページにたどり着く人も結構いる今日この頃。まあ別に、それほどこのドラマのことを書いている訳ではないのだが。

原作小説と「田宮二郎」版のオリジナルTVドラマを知ってこのドラマを見ると、やはり良くも悪くも今のフジTVというか。昔のオリジナル版が、いかに原作に忠実で重厚なドラマに仕上がっていたか再確認できる。そういえば、東教授の娘を演じたのはまだ若かった島田陽子で、里見助教授に診察受けるシーンで上半身のヌードまで披露していたのだった。TVにしては、ずいぶん力が入ったドラマでしたな。

今回のドラマでは、江口洋介扮する里見助教授と女患者のエピソードになると、どうしてもお涙頂戴で安っぽく、なんだかTV臭いドラマになる。このエピソードは原作には無いのだが、原作の里見なら、担当していた女患者が他の病院に転院して死んだと聞いても、病院の外に走り出て空をあおいで思い入れたっぷりに青臭く嘆息したりはしない。ただ、おそらく、少し哀しい眼をして、脂気の無い髪をかきあげて、研究室でずっと顕微鏡を眺め続けていることだろう。そして、小説や映画的には、そのほうがリアルなのである。TVに映るとそれではリアルではない。これがメディアとしてのTVの安っぽいところか。そして江口洋介は、TVのドラマに合っている。

里見助教授は、財前の陰影をクッキリと際立たせる「光」ではあるのだが、「光」そのものを描くのは難しい。あくまで財前の鏡像として存在してこそ、医師の一種の理想像として里見は輝く。そしてそれを輝かせるのは財前の悪役ぶりなのだが、今回はやや光も影も弱い気が。原作のラスト近く。「自分が一番信用している人間は里見で、一番愛している女はケイ子だ」と、全てを失う寸前の財前が悲痛な独白を行うシーンがある。今回のドラマのラストで、物語を成功裏にここまで持ってゆけるかどうか。なかなか興味深い。

今回の放映であった、財前妻と愛人の対決は、原作にはない。あまりにもTVドラマお約束の安っぽさ。現時点では疑問の一手。人物像としては、山崎豊子原作にある、金持ちのお嬢さんらしい財前妻の存在感の無さのほうがかえってずっとリアルだ。しかし、この対決が今後のドラマで生きる伏線になるのかどうか、今回の脚本家の力量が問われるところだ。

曲者野坂教授は、「田宮二郎」版では小松方正が演じていたと記憶する。実に印象的だったが、今回の役者はずいぶんと軽い印象。

今回の大河内教授は、やはり仮面ライダーの「死神博士」を思い起こさせる。「田宮二郎版」を知らない人には好評らしいが、どうもピンとこない。セリフ回しは計算があってああしてるのだろうが、妙な違和感あり。

賄賂の金を渡されようとした時に、「教授会いまだ死せずだ、帰れ」と激怒して金の入った封筒を踏みにじる、剛直な正義漢ぶりが原作の大河内教授の真骨頂。しかし、今回のこの俳優にはあんまりそういう雰囲気がない。偏屈な雰囲気だけがある。金を踏みにじって怒鳴ると、かえって異常者のような印象を与えそうな気が。極端なことを言うと、最後の病理解剖室のシーンでは、メスを握ると、「ヒヒヒ」と笑いそうな気がするのである。マッド・サイエンティストのように。ま、舞台では結構有名な俳優らしいので、実に失礼な感想ではあるのだが。ははは。