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2000/02/02 クリストファー・リーヴの夢

昨日の夜は、SkyPerfecTVのほうでスーパーボウルの録画放送をチェック。CS放送では、アメリカでの放送を録画してそのまま流しているので、むこうのCMも、ハーフタイムショーもバリバリ全開である。まあ、わざわざ有料放送でアメリカのCMを見て喜ぶというのも奇妙なもんだけど。

去年までは日本語の解説がついてたのだが、今回はむこうの音声のみ。妙な日本語の解説が入るより、本場の雰囲気をそのまま伝えて逆に好ましい。

BS放送で見てた時は日本語の解説を聞いてたのだが、同じ試合をこんどは英語のアナウンスで聞いて気づくのは、あっちのアナウンサーの放送が実に適確ですばやいこと。やはりフットボールを見てる年期が違うよなあ。

例えば、残り時間あと6秒、タイタンズ最後のパスプレイのシーン。日本語の解説のほうは、「あ〜!」と大声を上げて、「今のはエンドゾーン入ってませんよね」などとアナウンサーと解説者がお互いに確認してたのだが、あっちのアナウンサーは、レシーバーが倒れたとたんに、「Knee down、Games's over!」と一瞬のうちに断定する。この鮮やかな見切りが、さすがに何十年もフットボールを放送してるプロなんだよなあ。


CMのほうは、案外インパクトのあるものが少なかった。しかし、ひとつだけ、びっくりしたのはNuveen InvestmentsのCM。何かの賞の授賞式のシーンで、司会者が、「本日の特別ゲストを紹介しましょう」、という。

ステージにゆっくり現れたのは、、元スーパーマン俳優のクリストファー・リーヴ。ぎこちない、ヨロヨロとした足取りだが、しかし着実に自分で歩いて登場。あっけにとられた招待客の驚きは、やがて嵐のようなスタンディング・オベイションに変わって行く。

なぜこのCMでびっくりしたかというと、クリストファー・リーヴは1995年に乗馬中、転落事故を起こして脊髄に損傷を受け、首から下が全身マヒになり、今でもずっと車椅子の生活のはずだから。当時のアメリカでは、国民的知名度のある俳優、しかも元スーパーマン役が、一生車椅子の生活を強いられるという皮肉な事故に、ずいぶんと大きな報道がされていた。

しかし、ネットで確認すると、あのリーヴがヨロヨロ歩くシーンはコンピュータ・グラフィックスを使った合成なのだそうだ。リーヴは依然として、全身マヒのままである。

しかるべき研究や技術にお金を投資すれば、将来には何ごとも起こりうる。例えば、脊髄マヒの人が歩くことだって可能かもしれない。投資会社があなたのお金の投資先をアドバイスします、とまあそういう趣旨のCMだったらしい。

すっかり寝たきりだと思ってたリーヴが歩いている映像は衝撃的で、放映直後から、「リーヴはどこで治療を受けたのか」という、脊髄損傷患者やその家族からの問い合わせが相次いでおり、医学関係者からは「患者に誤解と根拠のない希望を与えるCMだ」との非難もあるらしい。

要するに、あのCMの舞台は何年か後の未来、傷ついた脊椎神経の再生法を発見した科学者の表彰パーティーという想定なのだが、確かにヘタをすると既に脊椎神経の復元治療法が発見されたのかと誤解を与えかねない内容であった。

普通に考えれば、リーヴも自分を見世物にするようなCMによく出演したと思うところだが、彼が出演した動機は十分うなずける。

なぜなら、あの不幸な事故の後、全米の注目を浴びて行われた最先端の治療がすべて失敗に終わり、医者から、「残念ながら現時点の科学では、あなたの全身マヒに回復の見込みはない」と告げられてさえ、リーヴは、「私はいつの日か歩く」と宣言しているのだから。CMの画面に映ったのは、リーヴの夢そのものであった。

「あまりにも楽天的すぎる」と非難され続けてきたリーヴは、今回のCM出演に際して、このようなコメントを寄せている。

”The biggest problem actually is people who have been in a chair for a very long time, Because in order to survive psychologically they have had to accept, 'OK, I'm going to have to spend my life in a chair.' So I get shots from some of them, you know, that I don't know what I am talking about."

(実際のところ最大の問題は、とても長い間、車イス生活をしてた人達だ。そういう人達は、生きてゆくために、心理的に受け入れざるを得なかった。”そう、私は残りの人生すべてを車椅子 の上で過ごさなければならないのだ”と。だから、そういう人の中には私を非難する人もいる。リーヴは自分で何を言ってるかも分かってないのだってね。)

そして、リーヴは確信を持って、こうも続けるのだ。

"most scientists agree that with enough money and talent focused on spinal cord repair, the goal of walking within the foreseeable future is a very real possibility."

(脊髄神経修復に、十分な資金と才能が投入されたら、予期できる将来、(そういう患者が)歩けるようになるという目標は十分実現可能だと、たいていの科学者は同意している)

リーヴの夢は実現するだろうか。遠くない将来に、損傷した脊髄神経の修復が可能になり、交通事故や労働災害やスポーツの事故で車椅子にしばりつけられた人々が、満面の微笑みとともに車椅子を捨て去り、自分の足で再び歩き出す、そんな福音の日が。