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1999/06/27 「盗まれたワールドカップ」

洗濯などしながら、「盗まれたワールドカップ」 (デヴィッド・ヤロップ/アーティストハウス)を読み進める。これは国際サッカー連盟の会長として長年君臨したジョアン・アベランジェのことを扱った本。

ブラジル生まれのアベランジェは、出所のはっきりしない金をバラまいて、各国のサッカー連盟代議員を大々的に買収し、若き日のサッカーの神様、ペレを世界各国の親善試合に連れまわして自分の知名度を上げ、前会長との決戦投票をわずか6票差で逃げ切り、FIFAの会長に収まる。

会長に就任するや、持ち前の権力欲を発揮してFIFAの独裁者として君臨し、FIFAの金は自分の金とばかり、飛行機はすべてファーストクラス、ホテルは超一流の部屋、チューリッヒにはFIFAが金を出す豪邸を確保、代議員の集まりにはFIFAの金で全員に高級時計をプレゼント、ワールドカップのブラジル戦のチケットはVIP席をいつでもタダで個人用に400枚確保するなど、公私混同もはなはだしい横暴なタイラント(暴君)と化す。

ご本人は、FIFAからは一ペニーも報酬は貰ってないと主張するのだが、上に書いたような贅沢な接待がFIFA丸抱えで、世界中を旅行する日当として、旅費実費とは別に年間100万ドルも貰ってるのだから、まったく組織を食い物にしてるとしかいえない。

絶対権力は必ず腐敗するというのは歴史の真実だが、問題は個人的な金使いの粗さだけでなく、ワールドカップの保険契約に自らが経営している会社を参入させたり、巨大スポンサーとの間で独断で決めた契約に不審があったり、母国ブラジルの優勝の為に、ワールドカップの規律委員会や審判団に自らの強大な権限を利用して圧力をかけた可能性があるなど、FIFAの活動自体を私物化した公私混同が目に余るということだ。

もっとも、アベランジェは老齢もあってフランスワールドカップ終了後に退陣したのだが、後任の会長にはまた息のかかった人物が選ばれている。

アメリカワールドカップの時には、自殺点を入れたコロンビアの選手が帰国後に射殺されたが、コロンビア戦には南米麻薬カルテルの巨額の金がかけられており、試合前にもホテルに脅迫の電話が次々にあったなど、ワールドカップが商業的に成功するにつれて、サッカーを取り巻く金と欲望の暗黒面も肥大して行ってるかに見える。そしてそれはFIFAに限らず、国際オリンピック委員会(IOC)にも同じような金権問題があるわけで、アベランジェとサマランチが親しい友人同志であったとこの本で読むと、さもありなんと頷くばかりだ。


で、この本は、内容的にはなかなか面白いのだが、話の対象や時制がコロコロ変わり、あんまり読みやすい本ではない。著者は「正義の探求者」として知られるノンフィクション・ライターだそうだが、あんまり構成を考えずに書き飛ばしているような印象。

ついでに翻訳についていうと、文章自体も、もってまわった婉曲な表現が多く、意味を取りにくい。ひとつには、著者が英国人で、そもそも持ってまわった婉曲な表現を多用しているのは理解できる。しかし、翻訳した以上、日本語として意味が取りづらいのは、ひとえに翻訳家だけの責任だ。

全体的に翻訳のレベルはちょっと低い。特にサッカーの試合の描写部分(これが本のかなりの部分を占めるのだが)に意味の分からないところや、日本語になってないところがあちこちある。翻訳者は本当に自分の訳を自分で読み返したのだろうか。

翻訳者の名前は小林令子。表紙裏の紹介には、「上智大学理工学部卒業後、化学研究所勤務を経て翻訳家」とあるが、こういう本を訳する翻訳家になるようなキャリアパスじゃないよなあ。で、監修はスポーツライターの二宮清純となっている。監修ってのはいったい何をやってたのだろうか。たぶんゲラをざっと見て、後書き書いて終わりだったようだ。最近は翻訳のサッカー物が色々出版されてるけど、翻訳についてはハズレが多いのはよほど粗製濫造してるんだろうなあ。