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1999/03/11 「日の丸」に火をつけて

Yahoo!のニュースを見ていると、政府は、本気で「日の丸・君が代」法制化の法案を今国会に提出するようだ。個人的には、今のままの日の丸と君が代が、それぞれ国旗と国歌としてあって構わないと思っているが、法律化されて色々な場での使用が強制されるのはどうだろうか。

あって構わないってのは、ほら、オリンピックやボクシングのタイトル戦なんかの時に、国旗や国歌がないとカッコ悪いじゃない。まあ、ただそれだけの理由だけど。やはり国旗掲揚の時に、「日本では国旗を巡って国内で論争が起きておりまして、今回の表彰は暫定的に国連旗を掲揚して行われます」なんて外国のアナウンサーに放送されるのは勘弁してもらいたい。

まあ、そんなつまらん事しか思いつかないのか、と言われると弱るけど、アメリカでフットボールや野球を見に行った時には、意気揚々と「星条旗よ永遠なれ」を歌う能天気なアメリカ人を見て、ちょっとうらやましく感じた事は事実だなあ。


日の丸に関する日本共産党の見解を読むと、法制化に反対する理由として、やはり日本が侵略したアジア近隣諸国が抱く、日の丸への嫌悪感と拒否感を上げている。しかし、それでは、新しい国旗を制定したとして、それらの国は、もろ手を上げて「日本が変わった」と賛成してくれるのだろうか。

変えたら変えたで、「侵略戦争の記憶を忘却のかなたに追いやる日帝の陰謀」(←ま、だいたいどこが言うか予想つくな)って言われるんじゃないかねえ。だいたい、そういう面では、「共産党」って言葉も、スターリンの民衆の自由を抑圧した暗黒のソ連支配や、血の粛正を思い起こさせて誰にも嫌悪感があるから、変えたらどうか。

日本の犯した過去の過ちは、国旗を替えようが替えまいが、どちらにせよ日本がずっと背負って行かなければならない過去であって、何事も忘れやすい日本人は、いましめの為に、たとえ血塗られていようと、むしろ日の丸をずっと掲げていったほうがいいような気がする。そして、アジア各国で嫌われているのなら、それを受け入れて恥じよう。国旗を替えて変わる問題でもないような気がするなあ。


ところで、展望社というところから出ている、「イギリス人は悲しい」という本がある。著者の高尾慶子は、波乱万丈の人生を送って、現在はイギリスで、単身プロのハウスキーパーとして生計を立てているという女性。

「女ひとりワーキングクラスとしてイギリスに暮らす」と副題にあるように、その土地に深く根を下ろした人間でないと到底書けないようなイギリス社会への歯に衣着せぬ批判、そして刀を返して日本人をも切った非常に小気味いいエッセイだ。書名そのものは、林望の「イギリスはおいしい」を始めとする「イギリス礼賛本」への皮肉からつけられている

この本に、現天皇皇后両陛下がイギリス訪問をした時、著者がそのパレードを、抗議に来た旧日本軍捕虜になったイギリス退役軍人達のまっただなかで見た話が出てくる。

母国の天皇陛下を一目見ようと列の先頭に出ようとした著者を日本人と知って、抗議に来た元捕虜とその夫人達は意地でも前に行かせてくれない。

「あなたの国が招待したんだから、歓迎するほうが優先です」と果敢に文句つける著者に、元捕虜の夫人は、「日本では戦争の歴史を教えてないんでしょう!」と叫ぶ。「ちゃんと勉強しましたよ。ヒロシマもナガサキも」というと、さすがにちょっと回りは静かになった。

いよいよ天皇陛下のバレードが前に差し掛かる時、元捕虜のジイサマ達は、号令を掛けて、クルっと後ろを向いてパレードに背を向ける。別の元捕虜集団は、手に持った日の丸に火をつけて、「ジャップ ゴーホーム!」とシュプレヒコール。

しかし、同時に彼女は見たのだという。若いイギリス人が、日本の旗を手にパレードを追って走り出したのを。そして、列にいたヨボヨボのジイサマが、日の丸を手に振りながらこう叫んだのを。

「Today the war has ended! It is the beginning of the peace today!」
(今日であの戦争は終わった。今日は平和への始まりの日だ)

著者は、思わず涙を流していた。とまあ、そういうお話。

たとえたったひとりでも、そう思ってくれるジイサマがいるのだったら、皇族の海外訪問も、あながち意味の無いことではないかもしれない。