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1999/02/23 「ベジタリアンの世界」を読んで考えた

昨日の夜と今日の夜で、「ベジタリアンの世界 〜肉食を超えた人々〜」(鶴田 静著:人文書院)読了。この作者自身が肉食をしないベジタリアンなのだが、歴史上、どのような有名人がベジタリアンだったかを列伝風に振り返って、ベジタリアンの歴史を概観しようという本。

広く菜食を説いたという点では、ベジタリアンの歴史は、古代ギリシャのピタゴラス学派に始まるらしい。これは宗教の規範というより、彼らが採用した転生輪廻の世界観によるならば、肉を食べるという事は、自らの祖先、両親、友人の生まれ変わりを食べることである、というのが肉食禁止にいたった理由なんだという。

その他にも、レオナルド・ダ・ビンチ、ジャン・ジャック・ルソー、ベンジャミン・フランクリン、ワグナー、ヒットラー、トルストイ、マハトマ・ガンディー、レゲエのボブ・マーリー、ボール・マッカートニーに至るまで、その菜食主義に至った動機やその生活をなかなか丹念に調べてあって興味深い。


イエス・キリストはベジタリアンだったか、という考察もなかなか面白い。しかし、ベジタリアンのホームラン王、世界でもっとも菜食主義者の多いインド人の代表がガンジーひとりだけでは、ちょっとバランスを欠いているような気もする。

インドに菜食主義者が多いのは、ヒンドゥー教の影響だが、ガンジーが菜食主義について述べた解説によれば、インド人でも純粋な菜食者はヒンドゥー教の4つのカーストのうち、ブラーマンとバイシャだけで、それより下の階級は、肉食したくても貧しくてできないだけなのだそうだ。それにしては、アメリカで菜食主義のインド人によく会ったけど、あれはそういう階級だったんだなあ。


そういえば、昔、うちの営業が取引先のインド系アメリカ人を、日本の仕入先の工場に連れていった時、彼がベジタリアンだと連絡を忘れていたら、工場での昼飯にハンバーガーが出てきたそうで、当のインド人は憮然たる面持ち。営業は大慌てだったらしい。なにしろ田舎だったらしいから、近所にベジタリアン向けのレストランなんてないよなあ。畑から野菜引っこ抜いてくることくらいはできただろうけど。

まあ、インド人のような、宗教面からの規制は別にして、純粋な菜食と行かなくても、肉を食べるのを減らすだけでも健康には色々といいらしい。菜食主義がもっと見なおされなければならないもうひとつの理由は、やはりエコロジー面。1ポンドの肉を生産するのに、牛なら16ポンド、豚なら6ポンド、鳥なら3ポンドの穀物飼料が消費されている。

いまだに日々の食料にも飢える人々が満ち溢れる国もあるなかで、本来ならそのまま人間が食べれば、もっと沢山の命を養える農作物を、大量に家畜に与えて畜肉を大量生産している今のシステムは、地球資源の有効活用を考えると、やはり再考する時期に来てるのかもしれない。

単純に考えれば、肉の生産を落として、穀物を貧困国に与えてやればよさそうだが、問題は、こうした大量生産システムに組み込まれた安い畜肉が、逆に先進国の貧困層を支えている、一番手軽で安いタンパク源だって事だろうか。

日本でだって、今や魚買うよりも、レトルトのハンバーグやハム、ソーセージ買うほうがずっと安い。アメリカならもっと安いもんなあ。この畜肉大量生産システムが崩れれば、先進国の貧困層の家計には大打撃だ。だいたいアメリカでも(インド人を別として)ベジタリアンってのは裕福な層に多い。菜食だけで生きてゆくほうが金がいる、宗教による食事の制約がない先進国では、意外にそういうものかもしれない。