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1998/10/17 「空へ〜エベレストの悲劇はなぜ起きたか〜」

ジョン・クラッカワー著 『 空へ〜エベレストの悲劇はなぜ起きたか〜』(文芸春秋社)を読了。96年5月に起こったエベレスト登山隊の大量遭難は、死亡者の中に、47歳の難波康子さんと言う日本人女性が含まれていて、日本でも大きく報道されたようだ。

普通の遭難と違ったのは、この遭難にあったのが、ガイドが一人当たり6万ドル以上の料金を取って各国からの参加者をエベレスト山頂にまで案内する、いわゆる商業ツアー登山隊だった点。この本は、有名クライマー、ロブ・ホール(この遭難で死亡)が率いた商業遠征隊に雑誌のレポーターとして参加して、幸運にも生還した著者が、遭難にいたる顛末を綴ったもの。

未熟練のよせあつめの登山メンバー、リーダーの判断ミスと天候の急変。極寒と酸素ボンベ無しでは満足に動けないような希薄な空気。吹雪の中で、体力の無いメンバーが動けなくなった時に、エベレストに住む死神は、足早にしのび寄ってくる。

リーダーのロブ・ホールは、登頂直後に動けなくなったメンバーに付き添って、そこで亡くなったらしい。遺体は発見されなかった。

それよりも先行して先に下りたグループも吹雪に巻き込まれる。このグループの中で生き残ったのは、「こんな場所に置き去りにしないでくれ」と泣く数名を残して、助けを呼びにベースキャンプに地力で引き返したガイドだけ。動けなくなった者を吹雪の中に見捨てるのは、山岳事故にはつきものの残酷な選択だが、まだ動ける誰かが助けを呼びに行かなければ、無条件に全員が死んでしまう。

助けを呼びに行く山岳ガイドのベイドルマンは、なんとか難波康子を立たせようとするが、彼女はもう力つきて立ちあがる事ができない。それでもなお、彼の腕にすがりついた彼女の凍えた指先が、すべって剥がれ落ちて行く感覚を、生き延びたベイドルマンは今でも忘れる事ができないのだと言う。ベースキャンプに向う吹雪の中で、彼は後ろを振り返る事ができなかった。

山の事故はいつでも、聞くも無残な極限状態ばかりだ。