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2006/12/14 「酔いがさめたら、うちに帰ろう」

「酔いがさめたら、うちに帰ろう」(鴨志田穣/スターツ出版)を一気に読了。著者は、漫画家西原理恵子の元旦那。以前から大酒飲みであったらしいが、離婚後に更に酒量が増え、朝から晩までの連続飲酒。身体はボロボロになり、アルコール依存症治療のために入院した精神病院、隔離病棟での生活を描く、一種の私小説。

彼のアル中ぶりは、「サイバラ茸5」にも戯画として描かれているのだが、彼自身が自分の飲酒習慣について述べる描写が実にリアル。

朦朧として朝起きると、まず酒を飲む、そして吐くのだが、それでまた飲めるようになり、ずっと夜まで飲み続ける。明日から禁酒しようと思いながら、黄疸の症状は出て顔は土気色、腹水がたまり、失禁、突然の意識喪失、食道静脈瘤破裂による大量の吐血。「今度飲んだら死にますよ」と医者に宣告されても、また連続飲酒の泥沼に落ち込み、結局は倒れて病院に運び込まれるという実に凄惨なアルコール依存の実態。しかし、この話はなぜか前にもどこかで読んだことがあるなあ…、と記憶を辿り思い出した。

吾妻ひでお「失踪日記」にも、中島らもの「今夜、すべてのバーで」にも、ほぼ同様、連続飲酒からアルコール中毒、そして入院への経緯が描かれていたのだった。それにしても、アルコール依存がみんな同じような行動を繰り返し、破滅の道を一直線というのも怖い話。

肝臓も腎臓もボロボロ、脳もアルコールで萎縮して、栄養状態が悪いからか、肋骨も自然に何本も折れる。自然気胸で肺には穴が。そして告げられるもっとシリアスな病。しかし、離婚した西原理恵子との関係は、サイバラが自らの漫画で自虐的に描く姿とは少し違う。「この物語はフィクションである」と注記されているのだが、なぜかおそらく、この本に描かれている2人の奇妙な絆のほうが、サイバラが偽悪的に描いている関係より、より実像に近いのではないかという印象がするのである。

著者の文章は、決して上手ではないのだが、妙な味がある。時折フラッシュバックする、戦場カメラマン時代の記憶の断片も印象的。サイバラもそうだが、伊集院静のエッセイでも時折感じるように、世をはぐれた無頼だけが持つ、摩訶不思議な叙情というものが確かに存在するのだ。アルコール依存になるのはおそらく、チャランポランな人間ではなく、ある意味妙に純粋で脆い人間なのだ。表紙の自画像は、ホロ酔いというより、ややアルコールにまつわる異常を感じさせるかのような微妙な顔色。題字はサイバラが書いている。実に面白かった。

まあ、私も酒飲みなので他人事ではない。アルコール依存度を測定するテストというのがある。「酒の上で失敗したことがある」、「酒を飲んで記憶なくしたことがある」など、ひとつでも当てはまればみんなアル中予備軍。私も立派な仲間入り。朝からの連続飲酒+ブラックアウトこそないものの、夜の飲み会で、一次会、二次会、三次会、そしてブラックアウトは何度も経験ある。普段、朝からアルコールを摂取する気にはならないが、休暇で旅行など行くと、朝からビール飲んだりするのは極楽なんだよなあ。などと、もうすでに危険水域に入ってるのかもしれない。

依存症を治療するには、完全な断酒しかないのだそうである。そういえば、中島らもだって、だいぶ長期間断酒してたはずだが、亡くなった時は酩酊状態で、スナックの階段を転げ落ちたのだった。