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2006/11/29 「黄泉の犬」

「黄泉の犬」(藤原新也/文藝春秋)読了。本のカバーになっているのは、著者が写した、「インドのガンジス河畔で人間の死体を食う犬達」の写真。これは、確か昔出た「東京漂流」という本で見た記憶がある。広告写真としても使われたが、題材を巡ってずいぶん騒ぎになったのだ。人間を齧るこのインドの野良犬が、またなんとも虚無的な眼をしている。1枚の写真であっても、実存、哲学を語りうることがわかる、著者の一種、記念碑的な作品。

著者の本は、以前何冊も読んだ。予備校生金属バット殺人、一柳展也の実家やら、バスガイド殺人の現場写真など、自ら撮影した写真とエッセイを組み合わせた独特の作品群は、ある時期確かに写真週刊誌の可能性を広げ、心の奥底を揺さぶる不思議な力を持っていた。

この本の前半は、まったくの偶然から、著者がオウム真理教、麻原彰晃の実兄の知己を得て、彼に接触しインタビューを行ったドキュメント。著者が仮説として提示してみせた盲目の麻原兄弟と水俣病との関連について、真偽の判断は保留したい。ただ、麻原の「闇」に、文明の歪んだ業(カルマ)が反映されていたのだとしたら、それはそれで、インド放浪を経た著者だからこそ直感で掴み取って我々に提示しえた、実に奇怪で不可思議な陰影を放つ因縁であるといえるかもしれない。

後半部分は、ある読者の青年の問いに答える形で綴られた、著者の若き日のインド放浪体験の回想と追憶。語られるエピソードはどれも、事実だけが持つ底光りした重みに満ちている。カバー写真、「人を食う犬(あるいは、犬に食われる人か)」を撮影した後のエピソードも、インドの深淵を垣間見る凄まじさ。

ネットで調べると、著者のオフィシャル・ページがあり、しばしあれこれ読んだり。無骨で剛直で硬骨な正義感に満ちたエッセイは、剃刀ではなく、サバイバルナイフの切れ味で、繁栄の安逸を貪る我々の弛緩した心に切り込んでくるかのよう。「東京漂流」、「乳の海」、「全東洋街道」など、ずっと昔に読んだ時のあの心のざわめきを懐かしく思い出した。いや、懐かしがってるだけではいかんのだが。