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2006/10/08 「大山倍達正伝」

Amazonで購入した「大山倍達正伝」(小島一志・塚本佳子/新潮社)読了。600ページ余という分厚い本。極真会館の創設者にして空手界伝説の巨人、大山倍達の半生を丹念に追いかけたノンフィクション。

私自身は知らなかったが、大山倍達はその晩年には、自らの生まれが朝鮮半島であることを隠していなかったのだという。韓国では、力道山同様、自国出身の偉人としてハングルで伝記も発刊されているのだとか。

2名の著者が、それぞれ前半と後半を書き分けている。戦争を挟む動乱の歴史に翻弄された、立志伝中の人物の謎を探索するドキュメントとして読むなら前半が、極真会館の内幕や空手修行、格闘家としての人生のエピソードに興味があるのなら後半が面白い。

大山が自ら語った自伝のあちこちには奇妙な矛盾が存在する。その謎を日韓両国に取材して追いかけるのが前半第一部。著者達の調査により、大山が自ら作り出した「大山倍達伝説」は、そのほとんどが真実ではないと明かされる。

東京での出生、満州での生活、そこでの「借力(チャクリキ)」の達人との運命的邂逅と修行、軍歴、拓殖大学空手部の学歴、牛殺し伝説など、全ては大山が日本人空手家として成功を求める過程で、朝鮮人の出自を隠し、自らの評判を上げるために次々と作り出した虚構であった。そして、朝鮮民族運動に没頭した戦後の一時期や、朝鮮籍で真の師匠と呼べる人物の存在など、大山が隠して語らなかった部分の経歴。日韓の二重国籍の存在と、日韓両国それぞれに家庭があったという事実などが次々と明らかにされる。

第一部の著者、塚本佳子は、全羅北道の朝鮮人富農の息子、崔永宣が、規制をかいくぐり密航で日本に入国、自ら大山倍達という日本名を名乗り、朝鮮の出自を隠し続けた経歴を、資料と取材を駆使して丹念に追いかける。その過程で、日本総督府による朝鮮の収奪、創始改名の強制、日本語の強制、日本への強制連行など、ステレオタイプな「日帝暴虐史観」が、大山倍達の実例から見て必ずしも全てにあてはまらないことを証明する部分は、本筋から一部脱線してもいるのだが、日韓の歴史の闇に光を当てるひとつの試みとしてなかなか読み応えのある部分。

晩年の好々爺とした大山の傍で編集者として仕えたという小島一志が担当する第二部は、アメリカ遠征でのゴッド・ハンド伝説、片方の眉を剃って修行したという山篭り伝説、プロレスラー力道山との確執など、もっぱら格闘家としての大山倍達伝説と晩年の大山の人間像に焦点が当てられている。プロレスと極真会館をビジネスで結びつけて権勢をふるう梶原一騎や、ウィリー・ウィリアムスvs猪木戦の真実など、格闘技好きなら興味深い逸話も数多い。

大山倍達の最期も実に印象深い。自ら創り上げた「極真王国」の行く末を案じ、極真のバイブルとしての「空手百科」完成を願う大山。しかし自ら「空手一代」とサインに好んで書いたように、偉大な王の死後、王国はおきまりのお家騒動によって分裂する。立会人5人による大山の遺言書があるとされたが、この確認申請は、どのレベルの裁判所でも却下され効力は認められていないようだ。この部分に関しての本作の記述が妙に曖昧なのはやや不可解。ひょっとして著者自身もなんらかの裏の事情にかかわっていたのか。だとしても、すでに大山の王国はすでに崩壊してしまったのであるが。

「力なき正義は無能なり。正義なき力は暴力なり」と大山は好んで説いたという。徒手空拳で韓国から日本に来日し、生涯をかけると誓った空手で、形より組手を、稽古より実戦を、「寸止め」よりも骨の軋む直接打撃を選び、誰よりも強くあることだけを孤高に求め続けた男の、荒波に立つ巌のような人生がこの本には鮮やかに描かれている。大山が日本名として選んだ「倍達」(朝鮮読みでペダル)とは、「朝鮮の上古時代の称号」なのであり、民族的誇りが秘められた名前なのだという。一気に読了した圧巻の一冊。