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2006/07/04 「負け組ジョシュア」自分探しの旅

昨日、「自分探し」の事を書いたら、先日読んだ、「負け組ジョシュアのガチンコ5番勝負」(ジョシュア・デイビス/ハヤカワ文庫NF)を思い出した。以前の週刊文春書評欄で取り上げられており、面白そうだったのでAmazonにて購入したもの。

一風変わった競技に自分の活躍の場を捜し求めるアメリカ人が書いたドキュメンタリー。サンフランシスコ在住、著者のジョシュア・デイビスは、子供の頃から何をやっても成功しない。大学卒業後も職を転々とし、30歳目前にして電話会社で薄給のデータ入力係。身長1メートル70センチちょっとに体重57キロという、アメリカ人としてはチビでガリガリ、吹けば飛ぶような身体。

原題の「The Underdog」をまさに絵に描いたような「負け組」ジョシュアだが、それでもなお彼は、子供の頃「いつかきっと誰にも負けない才能が見つかるよ」と父親に言われた言葉を思い出し、マイナーで変わった競技に自分の活躍の場を見つけるべくトライしてゆく。これは彼の「自分探し」の旅だ。

全米アームレスリング選手権への挑戦、ツテもなくスペインに渡っての闘牛士修行、US相撲オープンへの出場、背面走行(レトロ・ランニング)世界大会出場。高温サウナ連続滞在を競うサウナ選手権挑戦。

しかし、彼は輝かしい戦跡を残した訳ではない。アームレスリングは、軽量部門で全米4位となり、ポーランドでの世界大会に出場したが、全米の軽量級予選に出場したのは4名。つまり実際は予選では1勝もできず最下位。上位2名が世界大会に行ける資格を得るが、これまた上位2名がキャンセル。勝利無し、タナボタでの世界大会出場である。

スペインでは、どこからも闘牛士弟子入りを断られ、観客が知合い2名だけという自主興行を開催したにとどまる(余談だが闘牛士に挑戦している日本人も存在しており、1名は闘牛中の事故で死亡している。昔、日本のドキュメンタリーでも放映されたなあ)。サウナでは高温火傷で半死半生になり、当然ながら予選落ち。

US相撲オープンも1勝も出来ず敗退するのだが、武蔵丸を巡るエピソードが面白い。著者は、来賓として日本からやってきた武蔵丸の運転手兼アテンド役に指名される。武蔵丸は、顔こそいかついが、実はシャイで人見知り。著者のことも警戒して最初は仏頂面。しかし、ジョシュアが吹けば飛ぶような身体で相撲をやってると聞いて大笑い。すっかり打ち解けて仲良くなり、巨漢力士を倒す秘訣まで伝授してくれる。アマチュア相撲挑戦の部分は、確かに武蔵丸の性格がよく描かれており、ここから判断するに、おそらく他のチャレンジ部分についても極端な脚色はないだろう。

「Wired」誌の雇われライターとして取材したという側面もあるのだが、一歩間違えると「江頭2:50」か「電波少年」になりかねないところ。しかし、抱腹絶倒ながら、ちゃんと一種の「自分」を追い求める旅として成立しているのは、著者が、「いつかは何かの才能でトップになれると」固く信じて大真面目にマイナー・スポーツに挑戦しているところ。US相撲オープンで1勝もできなかった著者のところに、おずおずとサインを求めに来た少年のエピソードも印象的。そう、結果は出なかったにせよ、彼は誰よりも頑張っていたのだ。

Overnight Successを容認するチャンスの国アメリカ。しかし、輝かしい成功の裏には、省みられることもない数え切れない挑戦と失敗が暗然と横たわっている。それでもなお、能天気ともいえる楽観主義でチャレンジする人間がいる国。自分が他者とは違う「自分」であることを容認し、むしろ賞賛する国。どこの国よりも多くのノーベル賞学者を輩出し、どの国よりも殺人が多い国。いやはや、実に変わった人がたくさんいるよなあ。