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2006/05/06 「ウルトラ・ダラー」と1ドル札の謎

「ウルトラダラー」(手島龍一/新潮社)読了。こちらの旭屋には置いてなかったのでAmazonにて「国家の罠〜外務省のラスプーチンと呼ばれて」と共に発注した本。ネットで日本の本を気軽に注文できるとは、昔と比較して便利になったよなあ。エクスプレス便にすると送料のほうが高くなってしまうのが困りものではあるのだが。

北斎の真贋を巡る浮世絵オークションに始まる冒頭から衒学的知識満載。なかなかテンポよく進む国際政治サスペンス物。欧米、ロシア、中国、韓国、北朝鮮とめまぐるしく舞台を変え、北朝鮮のドル札偽造疑惑、日本人拉致事件、情報機関の暗躍、米国の軍事プレゼンスも含めたアジア圏安全保障問題と外交交渉の裏側などが描かれてゆく。ストーリーで扱われるあれこれの事件、企業になんらかの実在のモデルが重ねられていることが透けてみえるのも、この本のストーリーに迫真性を与えている。

著者紹介には、「著者の、世界に広がるディープスロートを存分に駆使して描く驚愕のドキュメント・ノベル」とあるのだが、実際のところ、どこまでが「虚」でどこまでが「実」なのかにいささか不審の念がわくのも事実。政治部にも席を置き、海外経験豊富なNHK元ワシントン支局長らしいが、それにしても、それほどの情報源を持ち、重要なインテリジェンスにアクセスできるものなのだろうか。まあ、諜報の第一歩はまず公開された情報の整理から始まり、それに尽きるというのもよく言われる話であるから、米国で日本向けにニュースを発信するという立場は、情報の分析に役立ったのに違いないが。

育ちのよいイギリス人で、流暢な日本語を操り、日本の文化にも堪能で、北朝鮮のウルトラダラーにまつわる世界的陰謀を暴くために活躍する、イケメンで女にモテモテのBBC特派員が主人公。NHKとBBC、日本とイギリスを逆さにするなら、この主人公には明らかに著者自身が投影されてるわけで、そのへんがなんだか微笑ましくもある。情事の場面になったら急にプツっと次の場面に移行するのが、品行方正なNHKドラマのようで、そこもご愛嬌。「これを小説だといってるのは著者だけだ」と帯にあるコピーは少々あおりすぎだが、サスペンス物としては、読んでなかなか面白かった。

余談だが、先日、日本に帰国したうちの駐在員が日本でドル札を両替しようとしたら、50ドル札が何枚か、日本の銀行の検査機ではねられて両替を断られたそうである。アメリカのATMでは普通50ドルなど出てこないから、テラーのいる銀行窓口で預金から引き出した札のはず。それが果たして偽札だったのだろうか。こっちの銀行支店に、紙幣鑑定機が常備してあるとも思えないから、気づかれないままに偽のドル札が流通してるということも、意外にありうるかもしれない。

これまた余談だが、日本に比べるとお粗末なのが多いこちらのベンディング・マシーンに1ドル札を挿入すると、かなりの確率でンベ〜っと拒否されて戻ってくる。あれはなかなか腹の立つものである。1ドル紙幣の偽なんてものは、経済効率を考えればこの世に存在するはずがない。だからあれは真札をリジェクトしてる訳である。もうちょっと真贋鑑定の精度上げろと言いたい。ま、1ドルの鑑定に金かけてたら引き合わんのだろうけど。確かに1ドル札には、ボロボロで匂いするような汚い紙幣が多いしなあ。しかし1ドルみたいな小額をコインにせず、文句言わずに皆が札として使い、世の中に大量に流通してる社会ってのも、日本からするとちょっと理解しがたい謎。アメリカでは20ドル札が普遍的なのに、日本では2千円札が壊滅的に姿を消してしまったってのもまた不思議なのだが。