MADE IN JAPAN! 過去ログ

MIJ Archivesへ戻る。
MADE IN JAPAN MAINに戻る

2005/11/29 「プリオン説はほんとうか〜タンパク質病原体説をめぐるミステリー」

「プリオン説はほんとうか〜タンパク質病原体説をめぐるミステリー」(福岡伸一/ブルーバックス)読了。

異常なプリオン蛋白質が、牛のBSE、羊のスクレイピー、人間のクロイツフェルド・ジェイコブ病(CJD)など致死性の脳症を引き起こす。この「プリオン仮説」は発表当時、生命科学のセントラル・ドグマに反するとして、各方面で様々な反論を呼んだ。しかし、この仮説を裏付ける事実が次々に提出され、提唱者プルシナーは1997年にノーベル賞を受賞。プリオン説は証明されたというのが通説。

この本は、それでもなお、「プリオン仮説」には証明しきれていない部分が残っていると主張する著者が、「プリオン仮説」の未証明の部分を解説するもの。異常プリオン蛋白質の影には、未発見のウィルスなどの原因が隠れているのではないかという説明は、記述も平易で分かりやすく、専門知識がなくとも謎解きを楽しむように興味深く読める。

細菌でもウィルスでもない単なる蛋白質が増殖して病気を起こすという理論は当初様々な反論を巻き起こしたが、現在では、異常プリオン蛋白質が自己増殖するのではなく、身体のほうが異常プリオン蛋白質を作り出すという結論になっているらしい。しかし異常プリオン蛋白質の摂取が、なぜ身体に異常を起こすのかのメカニズムはまだ解明されていない。

著者は、病原体とされている異常プリオン蛋白質は、現段階ではまだコッホの「病原体3原則」を完全には満たしていないと説く。異常プリオン蛋白質は不溶性で凝集するため分離が難しい。病原体をつきとめるには、BSEに罹患した牛の脳の成分を様々な分画に分離してゆき、それを実験動物に投与して感染力を調べるという過程を繰り返す。しかし、純粋な異常プリオン蛋白質だけにまで純度を高めた分画が感染力を持つこと、別に単体で精製した異常プリオン蛋白質が感染力を持つというところまでは証明できた実験がまだ無いのだとか。

その他、BSEの起源に関する考察や、人間に自然発生するCJDの由来についてなど、様々な話題からプリオン仮説に迫ってゆく過程が面白い。著者の主張は学会では少数派のようだが、だいたい説明できたと思われていた理論の隙間に、更に新たな発見が隠されていたというのは科学史において例のあることでもあり、今後の進展が興味深い。

最近の研究では、インドで川端に捨てられていたCJD患者の死体が肉骨粉の材料となり、それがイギリスでBSEの原因となったという説も唱えられているようだ。しかし、インドで死んだ人間の病気がイギリスで牛に蔓延し、また世界に広がってるのだと本当にしたら、生命の輪廻、世界を巡り行く壮大な因縁を想起させる、なにやら皮肉で不気味な話ではある。