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2005/05/10 戦争請負会社

「戦争請負会社」(P.W.シンガー/日経BP企画)を持参して読了。

米軍統治下のイラク国内で、米軍の下請け民間企業に勤務する米国人が殺害されたのは日本でも報道された。紛争地帯において、補給や食事の供給、収容所の維持警備などを、民間企業がお金で請け負っている事実は、私自身その時に始めて知った。世界には実は、軍事関連活動を商売にしている民間企業が多数存在する。この本は、米ブルッキングズ研究所に勤める著者が、PMF(Privatized Military Firm:民営軍事企業)と呼ばれるそれらの企業の成り立ちや活動の実態を詳細にレポートするもの。一気に読了。実に面白い。

PMF:民営軍事企業の活動は、政府正規軍の兵站や補給、警備などの後方支援に留まらない。彼らが請負するのは、世界各国を舞台とした、軍事戦略の立案・コンサルティング・軍隊の訓練から、はては自ら保有する軍事力を駆使しての実際の戦闘行為までに及ぶ。

南アフリカに本社を置くPMF、エグゼクティブ・アウトカムズ社は、内戦により転覆の危機にあった西アフリカ、シエアレオネ政府から、反乱軍の鎮圧を「受注」する。「契約」を交わした後、自らの会社に所属する千数百名の兵士を近代装備と共に投入、契約通りその国の反政府軍を壊滅状態に追い込んでこの政権を救った。もちろん彼らはそれに対する「支払」を受けている。アフリカの小国とはいえ、ひとつの国の命運を一民間企業が左右していたというこの話は、まるで映画の中の話のようだが、実話なのだ。

軍事オタクなら常識なのかもしれないが、この手の話はあまり日本のメディアでも扱われたことがない。このようなPMF:民営軍事企業には、冷戦の終結により余剰となった元軍人が多数流れ込んでおり、グリーンベレーや特殊部隊に所属する現役精鋭隊員も、軍隊の何倍もの報酬に惹かれて続々とPMFに転職しているのだという。世界における傭兵の歴史を概括する部分も、関連知識としてなかなか面白い。

もはや軍拡の時代ではない。しかし、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、アフガン、イラク、アフリカの内戦と世界に紛争の種はつきない。政府の正規軍を投入するより我々が行ったほうがずっと効率がよいというのがPMFの理論である。しかし、世界がここまできているとは実際のところ知らなかった。

そういえば、昨日の、イラクで邦人が行方不明になったというニュース。彼が勤めていたという、ハート・セキュリティ社も、おそらくPMFのひとつだろう。この日本人は元自衛隊の空挺部隊員だったという。この会社で何をやっていたのか現時点では不明だが、イラクで米軍の支援を行うPMFに雇われている日本人がいたということ自体、興味深い事実であり、これから日本のメディアでもあれこれ報道されるだろう。この本も増刷して結構売れるかもしれないな。

さて、ここから先は余談だが、もともと国家が請負うのが当然と考えられていた「安全保障」が民間に委託できるのなら、「外交」はどうだろう。日本の職業外交官は、対アジアでは土下座外交しか能がなく、欧米には何も物が言えない割には、在外公館では特権階級として湯水のように税金を使って豪華な暮らし。外交というほどの外交など何も行っておらず、日本の常任理事国入り支援も皆様の善意にすがるしか策がない現状。

この程度の外交であれば、国際ロビーイングに長けた大物で構成する外国のPDF(Privatized Diplomacy Firm:民間外交企業)に金で委託したほうが効果あるんではないだろうか。ま、もしも、そんな企業があったらの話だが。もっとも、国際政治を操った巨魁、アメリカ元国務長官ヘンリー・キッシンジャーは、自らのコンサルティング会社を経営している。探せば意外に、もうそんな会社も実在しているかもしれない。