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2005/01/26 「恐怖の詩学 ジョン・カーペンター」

「恐怖の詩学 ジョン・カーペンター/人間は悪魔にも聖人にもなるんだ」 (ジル・ブーランジェ/フィルムアート社)読了。

「ニューヨーク1997」「遊星からの物体X」「スターマン/愛・宇宙はるかに」などで知られるジョン・カーペンター監督のインタビュー集。なかなか面白い。カーペンター監督は、いわゆるB級SF・ホラー系では知られた名前。大ヒットした出世作「ハロウィン」は「頭のオカシイのが刃物持って何度倒しても起き上がって襲って来る」系ホラーという一大ジャンルを確立した記念碑的作品でもある。

殺人鬼の主観ショットによる映像は、例えばブライアン・デ・パルマの「ミッドナイト・クロス(Blow Out)」の冒頭でもパロディ化されているほど。

この本で初めて知ったが、ジョン・カーペンターはスティーヴン・スピルバーグと1歳違いなのだそうだ。スピルバーグが「ET」を発表して大ヒットを飛ばし世界的名声を得たちょうど同じ年に、ジョン・カーペンターが発表したのが「遊星からの物体X(The Thing)」。これが批評家から「ポルノよりちょっとマシなだけのシロモノ」と大酷評を浴び、ここでカーペンターがその後の監督人生をB級に生きる運命が決まったのだという説が興味深い。。

考えてみると、スピルバーグとカーペンターは何から何まで違う。

スピルバーグを表すキーワードを、「体制」、「商売人」、「メジャー」、「大金持ち」、「感動の大作でついにアカデミー賞」だとするなら、カーペンターは、「反体制」、「趣味人」、「マイナー」、「カウンターカルチャー」、「アカデミー賞とはずっと無縁」ということになるだろうか。内田裕也なら、「ジョン・カーペンターはロックンロールだぜ」と言うかもしれない。

インタビューに対する答えも、いわくいいがたい妙な変人風味があって面白い。質問のほうも時として理屈っぽく辛辣で意地悪なトーンがあり、どうも不思議な印象だったが、インタビュアーはフランス人評論家であった。

公開当時は、批評家から「おぞましい代物」と叩かれた「遊星からの物体X」だが、年を経るごとに人気が出て、いまやモンスター映画を代表する一種のカルト・ムービーに。個人的にはこの映画がジョン・カーペンターのベストだと思う。

アメリカで購入したビデオがどこかにあるはずだが、ちょっと探してみるか。怪物が憑依した犬を殺そうと、雪原の上空を必死にヘリコプターで追ってくるノルウェー隊ただ一人の生き残り。緊迫感あふれるオープニングから映画は疾走したまま一気にラストまで。カーペンター自身による音楽もシンプルながら効果を上げている。

ロブ・ボッティンの特殊効果は「若気の至り」で確かにやりすぎと言えばやりすぎ。グロテスクさに眉をひそめるのがまっとうなオトナの感性という気もするが、これを面白がって使ったジョン・カーペンターに感じられる少年のセンス・オヴ・ワンダーが面白い。Bad good movie よりもGood bad movieを愛好する者なら分かるに違いないのだが。