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2004/08/29 「廃炉時代が始まった〜この原発はいらない」

天気が悪い。今日も読書三昧。

「廃炉時代が始まった―この原発はいらない」(舘野淳/朝日新聞社)読了。

原子力潜水艦に搭載するための原子炉を民生転換して生まれた軽水炉は1960年代後半より「技術的問題が未解決で実用炉建設は時期尚早」とする日本の科学者の反対を押しきる形で次々に建設されていった。GE、ウェスティングハウス社などの積極的な売り込みと政治家の関与がその背景。しかし、すべて米国依存の技術で建設された日本の初期原発は事故をくりかえしており、すでに老朽化している。

元日本原子力研究所に勤務していた著者は、日本の原発の事故記録、立地などを再検証し、第一世代の古い技術で作られた原発、大地震発生の可能性が高い地域にある原発についてはすぐさま廃炉処分を検討するべきであるとしている。この本で挙げられているのは、福島、大飯、敦賀、高浜など各所の原発。

先日事故を起こした美浜原発も、2号機が蒸気発生器細管破断による冷却水喪失という重大事故の一歩手前に至る事故を91年に起こしている。1号機も故障が多く最悪の設備利用率。著者はこの原発群も廃炉すべきだとしてる。先日の事故が起こったのは、この美浜の3つの原子炉中、唯一平均的設備利用率を維持していた3号機だったというのも後から考えれば皮肉なことである。

原発の寿命は当初20年程度と想定されていたが、老朽部分の交換などを繰り返すことにより、なしくずし的に利用可能年数が40年以上と延長されてきているのが実情。しかし、交換や修理によって本当に寿命が延びているのだろうか。加圧水型炉の蒸気発生器は、多発する事故に手を焼き、圧力容器を切り裂いて蒸気発生器をそっくり交換するという大修理がなされるようになっているが、これは当初の圧力容器や原子炉本体の耐用年数見積もりにはまったく想定されていない大改修らしい。事故が起こった場合の安全性に疑問がわく。

老朽化以外にも、大地震発生危険地帯にある浜岡原発などが著者の挙げる廃炉推奨原発。もっともこの本はヒステリックな原発全面廃止論ではない。現在のエネルギー需要から見て、原子炉を全て撤去するのは不可能に近い。危険な技術であるがコントロールできる範囲で最大の安全性を確保して原子炉を運営して行かなくてはならない。そのためには事故リスクの高い原子炉はすぐに停止・廃止すべきという理論。原子力資源の確保面では、プルサーマル政策に関する批判や核燃料サイクルについても書かれておりなかなか参考になった。

日本の原子力政策は昔から、官僚、メーカー、電力業界の癒着によって密室裏で進められている部分がある。事故隠しや、核燃料サイクル議論で最終処分のコスト計算を官僚が隠していたなどその最たるもの。もともと普段から常に一般の話題に上るような政策ではないから「知らしむべからず」でコッソリやっているわけである。しかし、スリーマイル、チェルノブイリ、JCO臨界事故など、注目をあびる重大事故があるととたんにメディアでも原子力の安全が大問題となり、極端な推進派はブレーキをかけられる。しかし時間が過ぎれば安全性の議論も忘れ去られるという繰り返し。今回の美浜3号機の事故は原子力とは直接関係ないのだが、現状稼動している全ての原子炉の根本的な安全性についてもっと徹底的な議論と検証が行われるべきだ。