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2004/06/20 「神は沈黙せず」

「神は沈黙せず」(山本弘/角川書店)読了。著者は世にはびこるトンデモ本を斬る「と学会」会長。「トンデモ本の世界」も最近よく売れている。

フェッセンデンの宇宙、旧約ヨブ記、神、シミュレーション・ゲーム、UFO、超能力、霊とポルターガイスト、空から降る氷や魚、チューリング機械と人工知能。かなりの長編だが、これらのキーワードに反応する人なら最後まで飽きずにあっさりと読み切れるだろう。

近未来、ハッブルの後継として打ち上げられた宇宙望遠鏡は、遠宇宙のどの方向の写真にも、なぜかある種のノイズを含んだ画像を送信してくる。太陽系を離れ、外宇宙を目指して飛行していたパイオニア号の奇妙な速度減速。主人公の目の前で現実に起こる超常現象。そしてこれらの謎と「神の実在」を巡る奇想天外な解決。

「と学会」で読みこんだ「トンデモ本」関係の該博な知識が詰め込まれ飽きさせない。山田正紀の「神狩り」を思い起こさせるところもあり。瀬名秀明 「ブレイン・バレー」よりもずっとよくできている。ただし、書き込んでいる分野が余りにも広く、余計な雑学が延々と出てくるのが物語を長過ぎるものに。「南京大虐殺」についても本筋と関係ないところで長々と記述が続くのがちょっとばかりうんざり。まあ、欧米でもSkeptic関係のサイトでは「ホロコーストの有無」は常に侃侃諤諤の大きなテーマではあるようだが。

UFO、超常現象、超能力などに関して、間違った知識とデマを極限まで廃した上で、それを「神の実在」問題と結びつけてしまうアイデアには感心。話のスケールは大きい。しかし、小説としての完成度とカタルシスについて十分かと言われると少々疑問も。一人称で書かれていても主人公にあまり感情移入できない。知識としてはこの本の勝ちでも、「トンデモ」関係のデマをなんでも信じこんでしまうnaiveな小説家、高橋克彦「龍の棺」のほうがエンターテインメントとしてはずっと優れているというのが面白いところ。政治経済、ネットの将来などに関しても少々疑問の沸く記述あり。ご本人の著作としては、小説よりもやはり「と学会本」のほうが光っている気がする。もちろん一読の価値ある面白いSFであるが。

余談ではあるが、本の帯には「乙一」という人の「ぼくの2003年ベスト・ミステリー」という評が出ている。個人的な分類基準ではこれは明かに「SF」。「ミステリー」というと、殺人やら刑事やら温泉やら時刻表がつきものという気がするのは私の偏見か。アメリカの本屋にも、「Science Fiction」の棚はあるが、「ミステリー」なんて分類あったっけな。

あと、概略のストーリーや物語のキーワードが、本の帯にも見開きにも一切出ていないのは販売戦略的にはマイナスだし不親切。著者の考えかもしれないが、何が書いてあるかまったく分からずに迷わず購入するのは、この人のよほどのファンだけだろう。私の場合も「何の話だか一切書いてないのも困るよなあ」と思いながら購入したのだから。