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2004/04/30 「聖徳太子はいなかった」

「聖徳太子はいなかった」(谷沢永一/新潮新書)読了。聖徳太子にまつわるエピソードはすべて伝説にすぎず、太子が実在の証拠はない。禁忌の扉を開く衝撃の1冊とのふれこみ。新潮新書は後発の新書だが、帯の広告が実にセンセーショナルで上手だ。

この本に関しては、妙にはしゃぎすぎた文章の論理が時折飛躍し、何を言いたいのか意味不明の部分多し。ほとんど推敲してないのではないか。著者はかつて保守派の結構な論客であったが、あるいは、そろそろ寄る年波の影響か。

厩で生まれたとか、死んだ後の「空虚な墓」など、「イエス・キリスト」伝承から取ったようなエピソードもある聖徳太子伝説であるが、確かにその実在を裏付ける史料にはあれこれ疑念が生じるようだ。まあ、これについては「イエス・キリスト」も同様で、「史的イエスの復元」に関してドイツの先哲の興味深い研究があれこれある。

もっとも、びっくりしたのは、著書あとがきで、「聖徳太子がいなかったことはとっくに学界の常識となっている、いまさら素人の私が…」と著者が書いている点。日本史に関してはまったく知識がないが、そういう事が常識となっているとは知らなかった。もしもそれが本当なら、学者ももっと一般大衆を啓蒙してもらいたいものであるが。

しかし、考えてみると、前回の紙幣切り替えで1万円札の顔が福沢諭吉となり、一時期は1万円やら5千円の顔であった聖徳太子が退場したのも、ひょっとするとそういう知見が影響したのかもとも思うわけであった。ううむ。しかし、そうなのかな。