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2004/02/15 「蛇にピアス」/ 「蹴りたい背中」

今月号の「文芸春秋」で、金原ひとみ「蛇にピアス」、綿矢りさ「蹴りたい背中」読了。3月号の部数はすでに90年以来の100万部突破だというから売れてるんだな。もっとも受賞作の単行本を2冊買うよりは文芸春秋を買うほうがずっと安上がり。

日本の「ブンガク」というのは、何を読んでも私小説の香りがしてあんまり好きではない。文芸春秋は買ってはいても、毎年の芥川賞受賞などほとんど読んだことはないのだが、今年は2作とも通読。最年少受賞者といっても、どちらもきちんと読めるしっかりした小説。

受賞作を読んでから選者のコメントを読み比べるのも楽しい。自分の才能以外はハナから認める気もない石原慎太郎の小児性というのも面白いが、村上龍が「蛇にピアス」を読んで最初に違和感を感じたと述べているのも興味深い。題材的には彼が一番好きそうな分野という気がするが、なんらかの肌合いのようなものだろうか。

舌ピアスの穴を拡大して行くことにより、蛇のような2つに別れた舌を作り上げる人体改造。スプリット・タンに関する話から始まる「蛇にピアス」には物語に妙な疾走感があって一気に読ませる。ボディ・ピアス、刺青、SM、殺人。そして露骨な性描写と気だるい雰囲気に潜む異常性。にもかかわらず、この物語が一種の純愛物語として成立しているのは、作者のただならぬ力量なのか、それとも若さだけが持つキラメキゆえか。

ほとんど同世代の物語でも、「蹴りたい背中」の世界はまったく違う。平凡な高校生の日常。誰でも経験した、「自分は人とは違う」という青春特有の微妙な焦燥感が細かいエピソードの積み重ねで丹念に描かれている。ちょっとサリンジャーを思わせる部分も。作者が真面目で知性ある女性であることがよく分かる。

ベランダに寝転がるクラスメイト「にな川」の背中に足の指をそっと押しつけるラスト。あからさまで即物的単なる排泄行為のように描かれた「蛇のピアス」の性行為よりも、この「背中を蹴る」行為のほうにむしろ淫靡な陶酔感さえ漂っているのがなかなか面白い。

どちらの小説にも共通に感じるモチーフは、「疎外感」だろうか。しかし同じ日本、同年代の物語にもかかわらず、2つの小説の主人公の欠落と疎外感は、お互いに決して交わることのない世界で同時並行している。社会も個人もそして青春さえも、成熟し多様化している日本の現実を象徴するかのような芥川賞最年少受賞コンビだった。