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2003/09/17 「鮨を極める」

「鮨を極める」(早瀬圭一/講談社)読了。「男たちはなぜ鮨屋になったのか。16人の鮨職人たちの人生と味の真髄に迫るノンフィクション」と帯にある。著者は元新聞記者の作家。寿司一筋に40年食べ歩いたという年季の入った寿司好きである。

紹介された16店のうち、私が訪問したことがあるのは、銀座「すきやばし次郎」、新橋「新橋鶴八」、人形町「き寿司(きは七が三つ)、上野毛「あら輝」、金沢「千取寿し」と5店。名古屋や京都の寿司職人も紹介されているのだが、さすがに店の名前は知らなかった。ま、寿司屋巡りはあっちもこっちもと数こなすより、どこかに碇を下ろして常連になるほうが結局は得することが多いわけで、行きつけの店がいくつかできるとなかなか新店の開拓まで手が回らない。

それぞれの寿司店の親方にインタビューして、その寿司人生を取材しているのだが、紹介されている中にはどこかで読んだエピソードも多い。すきやばしは、「次郎 旬を握る」、神保町鶴八は、「神田鶴八鮨ばなし」、次郎よこはま店なら「江戸前ずしの悦楽」、きよ田の「ひかない魚」など、鮨の名店を題材にした自伝やノンフィクションは結構あるから、そこから引いているのか、あるいは本人達が同じ話をまたしているのか。

もっとも、著者自身の体験談も随所にあり、これが面白い。「神保町鶴八」の先代、師岡親方は実に短気な江戸っ子で、何かで急に怒りだし、作りかけの「ちらし鮨」を客に向かって投げつけた。店中がてんやわんやになり、今は独立して店を構えている「新橋鶴八」の石丸親方(当時は神保町の弟子)が親方に抱きつくようにして止めたなどのエピソードもびっくりするなあ。

「新橋鶴八」の石丸親方とは神保町時代から20年以上の付き合いというのだから凄いものだが、この石丸親方へのインタビューが面白い。
「ウニなんか買って来て乗っけるだけ。鮨屋の手間は何もかかっていません。だからできるだけ山盛りに沢山乗せます。ウニで儲けることなんてできません。そのかわり穴子、コハダ、ハマグリなど手を加えたものからはちゃんと利益を頂きます」
確かに「新橋鶴八」のウニは、赤と白と2種類のウニをこれでもかとテンコ盛りにしてある。利益を頂くというコハダや穴子にしても1貫400円程度。寿司の質と比較しても実に良心的な勘定だ。ぶっきらぼうだが真面目で、しかも1本芯の通った石丸親方の、職人としての意地が感じられるような発言である。その他、「千取寿し」、「あら輝」など、自分の訪問したことのある店の話も興味深い。

そうそう、余談だが、表紙のマグロ握りは「次郎よこはま店」ではないかな。