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2002/03/05 ゴーン革命が日産を滅ぼす

「ゴーン革命が日産を滅ぼす」(安田有三/KKベストセラーズ)読了。ルノーから日産に派遣され、ニッサン・リバイバル・プランを掲げて、経営改革に大ナタをふるい、業績を急回復させたカルロス・ゴーン。2000年度連結決算では、日産自動車は連結で3000億円もの当期利益を計上した。

この本は、経済ジャーナリストである著者が、カルロス・ゴーン改革を検証したもの。著者は、業績のV字回復は、資産の切り売りと、後先を考えないドラスティックなコストダウンに寄っており、日産自動車の本質的な体質改善にはなっていない。むしろ、ゴーン改革は、長期的には、日産自動車の体力を削ぎ、将来を亡くすものではないかと主張している。

まあ、確かに、今回の業績回復が、資産の切り売りによって成り立っているのは事実。関連会社の株式や土地等のめぼしい資産は、ゴーンによってほとんど処分されてしまった。「売るほどあるのは車だけ」という日産自動車幹部の発言を著者は伝えているが、資産売却によって利益は上がっても、車はちっとも売れていない日産自動車の笑えぬ実情である。

しかし、この著者の、「ゴーンは短期的な利益ばかりしか見ていないが、従来の日産経営陣は長期的な視野に立って経営していた」という主張はお笑いである。おそらくは、日産自動車のご用ジャーナリストとして、内部の誰かの意見を代弁しているのだろう。しかし、長期的視野に立って経営してたら、ルノーに救済されなければ倒産寸前のテイタラクにまでなったはずはない。日産自動車の旧経営陣に対する擁護論は、失笑を買うだけだろう。

従来の日産自動車の経営陣では、決してできない改革をカルロス・ゴーンはなしとげた。これは虚心に認めなくてはいけない事実である。

もっとも、ゴーンが短期的な利益しか見てないのも、また事実に違いない。ゴーンは別に、日本に、あるいは日産自動車に骨を埋める気なんぞはサラサラない。有能な経営者として、企業再建の手腕を短期間に存分に見せつけたら、後は次のポジションへプロモーションを狙う。おそらくはルノーのCEOの座は、射程圏内に入ってきているだろう。フォードがスカウトするというウワサもあるらしい。

フランスは、日本が及びもつかないほどの学歴社会だ。極端に言うならば、日本で東大を出ても、成功は約束されないが、フランスでエコール・ポリテクニーク(国立理工学校)を出たならば、ほとんど成功は約束されたも同然なのだと言われるほど。

ゴーンはここを卒業した超エリートであるが、ひとつ弱点がある。学歴という、成功へのチケットは手にしているものの、学歴同様、家柄が幅をきかす権威主義のフランス社会にあって、彼はレバノン生まれのブラジル人。

ゴーンは、おそらく成功には人一倍敏感であり、そして貪欲だ。日産の2000年度の業績V字回復など、彼の究極の目標からすれば、おそらく物の数ではあるまい。彼はもっと巨大な、目のくらむような成功を求めている。もっと強大な権力と活躍の場を。

ま、しかし、こういう人物を見ると、日本の大企業で、年功序列順送りで偉くなったトップというのが、世界のエクゼクティヴのレベルからすると、いかに世界に通用しないか、実に痛感するなあ。

日産自動車の凄まじいばかりの経営改革は、ゴーンの次のステップへの踏み台であって、長続きしないということはありうる。しかし、ぬるま湯につかった従来の経営陣が舵取りをしていたら、日産は今ごろ潰れていただろう。ゴーンに絞り尽くされても、ま、どっちにせよ、あんまり文句言えた義理でもないよなあ。