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2002/01/05 「イギリス職人ばなし」

昨日が仕事始めだったが、半日で終わり。また土日でお休みとなると、再び正月気分が戻ってきたようで、どうも調子が出ない。

「イギリス職人ばなし」(塩野米松/晶文社)読了。英国でいまだに残る手工業の職人を訪ね、その職人仕事の真髄をインタビューした本。同じ出版社から出た、スタッズ・ターケルのインタビュー集「仕事」をちょっと思い出させる。

ビア樽作り、箒作り、屋根葺き師など、英国の田舎町で伝統の手工業に生きる男達の仕事ぶりが、彼らの肉声によって生き生きと描かれている。特に巻頭に置かれている、ビア樽作り職人の話は、見習からマスターになるまでの職人の苦労やその成長が、簡潔に本人の口から語られており、ちょっとした男の一代記を読むようで、大変に興味深い。

ビールを入れる樽は最近ではほとんどがスチール缶になってしまったが、きちんと作られた木製のビア樽は、およそ80年の使用に耐えるのだという。そして寿命がきたら、こんどは使える部分を利用して、小さな樽に生まれ変わり、これがおよそ30年は使える。

最初に作ってから100年以上も経てば、次の木が十分に育っており、またその木を切り出して新しい樽を作る。「木をムダにしてるなんて、ちっとも思いませんよ」とビア樽職人のシムズは語る。確かにその通り。素晴らしい自然利用のサイクルが、かつては存在したのである。

この本には8名の職人が紹介されているのだが、釘鍛冶やコラクル船職人、ふいご作り職人、ロンドンの街鍛冶屋の4名は、若い頃から見習として師匠につき、身体で仕事を習得したという、厳密な意味での『職人』ではない。成人して別の職についていた人間が、ひょんなことから独学で、その仕事に取り組み出したという、いわば『アマチュア職人』である。今の英国でも、伝統の職人を探すのは至難の技だ。

この本の取材で、英国に残る職人を探す予備調査で、ロイヤル・アルバート美術館を訪ねた著者は、「産業革命は、どの国で最初に起こったかご存知ですよね?」と問いかけられる。家内制手工業から工場制機械工業が成立・発展した最初の国がイギリスであり、大規模な工業化と商業の発展を基礎に、世界に冠たる大英帝国が成立した。この過程で、数多くの手工業が失われたのだという。

日本にいると、英国は伝統の国であって、なんとなく昔の家内工業もあちこちで残ってるような漠然とした印象を持つが、歴史的には、英国は、そういう職人技が、一番残っていなくても不思議ではない国である。そういう面では、ずっと遅れて工業化をなしとげた日本のほうに、伝統の職人芸が多く残っていて当然なのかもしれない。色々と考えさせられる本であった。