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2001/12/15 「ファン・ゴッホの手紙」

「ファン・ゴッホの手紙」(二見史郎編訳・みすず書房)を読み進める。ゴッホの書簡集というのは昔から出版されており、小林秀雄も、ゴッホの書簡集を題材に、「ゴッホの手紙」という評伝を書いた。今回の出版は、従来にあった削除、省略、伏字等を復元した版ということである。

ゴッホ自身は、何度も神経性の大発作を起こして精神病院に入れられている。その絵も特異な性格も、存命中は世に受け入れられず、結局は貧困と失意の内に自殺した。しかし、大半が弟に宛てられた書簡を読むと、ゴッホが、いかに自らを客観視して内省し、身体の状態も精神の状態も、克明に「感じて」いたこと、周りのすべてを冷静に観察記録していたということが分かる。

小林秀雄は、「近代絵画論」の中で、「絵に表れた同じ天才の刻印が書簡にも現れている」と書いた。実際にこのゴッホの書簡を読むと、その異常な迫力に、ただ圧倒される。それは孤高な魂が、止むに止まれずに咆哮した、胸の奥底からの深いトーンの告白である。

故郷で会った寡婦、ケー・フォスに求愛するが、手厳しく拒絶されたゴッホは、それでもひるまないその激情ゆけに、父親から「お前は気違いだ」「お前は野卑だ」となじられる。ケー・フォスに会いに実家を訪問すれば、ケーは身を隠し、ゴッホに顔を合わせようともしない。先方の家人に、「お前の執念には吐き気がする」と罵られながらも、ゴッホは自分の指をランプの火の中に突っ込み、「この指を火の中に入れていられる間だけでよいから、ケーに会わせてくれ」と懇願するのである。

ここまで世に受け入れられず、誰からも拒絶されるというのも、実に気の毒な話である。しかし、この顛末が、ゴッホ本人の筆致で手紙に綿々と説明されているところが、これまた異様なまでの迫力を持って読む者に迫ってくるのであった。