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2001/03/11 「スプーン〜超能力者の日常と憂鬱」

「スプーン〜超能力者の日常と憂鬱」(森達也/飛鳥新社)読了。1998年にフジTV系列で、「職業欄はエスパー」というドキュメンタリー番組が放映された。いわゆる超能力者から、スプーン曲げの清田益章、UFO呼びの秋山眞人、ダウジングの堤裕司の3人を選び、その日常を追いかけながら、サイキックの実像に迫ろうというもの。

この著者は、フリーのTVディレクター。企画段階から8年間に渡り、この3名に繰り返し接触し、その不思議な力を何度も見ている。果たして超能力は存在するのかしないのか、番組を企画した著者自身の揺れ動く心の状態も含めて、その取材過程をまとめたのがこの本だ。

元祖ユリ・ゲラーのスプーン曲げは、ジェームス・ランディによって、トリックで実行できると叩かれているのだが、以前、ビデオで見た清田のメタル・ベンディングは、顔の前にスプーンをかざし、頭がポロっと取れるところまでワン・ショットで見せるというもので、これにはビックリした。

もっとも、清田は全盛期の頃、日本TVの特番に出演した時、天井の隠しキャメラに、机の下でスプーンを手で折り曲げているところを撮影されている。この本でも、本人の口から、調子が悪く、失敗できないというプレッシャーがあり、手を使ったことを認めている事実である。超能力少年の走りであった関口少年も、週刊朝日の取材時に、スプーンを放り投げる前にヒザに押しつけて曲げている写真を撮られ、インチキ少年としてメディアから去ったのは有名だ。

「オッカムのカミソリ」を引き合いに出すまでもなく、そもそも存在すら疑問な力を証明しようという時に、一度でもイカサマしたら、もうオシマイである。すべてがイカサマであったと説明づけられても反論はできない。しかし、今でも清田は、観察者が片方の先端を持った状態でもスプーンを曲げ続けており、マジシャンが見てもトリックを指摘できない時があるというのは不思議な話だ。

秋山眞人の力は、いわゆる霊視であって、人や物に残留した思念やエネルギーが見えるのだと言う。ただし、何度も宇宙人に会っているという話になると、あまりにも荒唐無稽で、真面目に語るのに躊躇するところである。ヒューマンタイプの宇宙人は、ごく普通のサラリーマンのような格好で街を歩いているのだそうだが。う〜む、それはちょっと電波系の妄想を聞くような気が…。もっとも、この本で描かれた秋山は、ごく普通の常識人であって、オカシイ系、あるいはイカサマ系の人には見えない。そこが奇妙だ。

一番抵抗が少ないのが堤だろうか。ダウジングは、無意識が手の筋肉に動きを伝えるものであって、超能力ではなく単なる技能であると言う。このへんは、コリン・ウィルソンなどの主張と同じである。もっとも、幽霊捕獲機や場の異常を検知する機械を自作するということになってくると、これまたちょっと引いてしまうわけであるが。

まあ、超能力の実在は別として、この3名の生い立ちや経歴を読むだけでも興味深い本だ。奇妙な能力を持っていると主張するだけで、世間から異常者のように思われて排除されてきた辛酸。秋山は、こういう特殊な能力を持っている人の中には、それに耐えきれず、精神病院行きになる人も多いのだという。

なにかの拍子にTVに出れば、一時は人気者になるが、大槻教授みたいな、これまた逆な意味でオカシイ系の人と見世物で対決させられ、飽きられればしょせんキワ物として使い捨て。超能力者というのは、実に気の毒な人たちでもある。