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2000/11/30 「まぐろ土佐船(とさぶね)」

先週からの通勤途上で、「まぐろ土佐船(とさぶね)」(斎藤健次/小学館)読了。土佐の船ならカツオの1本釣りが有名だが、はるか南半球まで船を出し、アフリカはケープタウン、オーストラリアのフリーマントル、タスマニア、南アメリカはメキシコからアルゼンチンのモンテビデオ。まさに風の向くまま、世界をまたにかけて2年近くもマグロを追う、まぐろ漁船も土佐には数多い。

この本は、フリーライターを経て、どうしても遠洋漁船に乗りたくなった著者が、まず土佐に行き、乗り組みまでスナックの店員をして1年半も待った後に、ようやく土佐のまぐろ船に乗りこみ、何度かのまぐろ漁航海に同行した記録。小学館ノンフィクション大賞受賞作。

約20名が乗り組んだまぐろ船の冷凍庫が一杯になって日本に帰って、水揚げは2億から5億円。収入はマグロの質に大きく左右される。しかし、不漁続きならば、冷凍庫を一杯にするまで、ヘタをすると2年近く南半球でまぐろ漁を続けなければならない。

航海中には、燃料や食料の現地での仕入れ、乗組員の留守宅への渡し金など、およそ1ヶ月で1千万円の経費がかかり、2年間漁をすれば、経費だけで2億4千万円。船員へのサラリーや借入金の金利を考えれば、3億程度の水揚げでは大赤字。まぐろ船のオーナーにとっても、まぐろ漁は一種のバクチのようなものである。

それにしても驚くのは、著者がまぐろ船に乗り組んでる期間だけでも、船から操業中に海に落ちる例が結構あることだ。何キロもある網を引くまぐろ漁船の上は操業中は戦場で、ベテランであっても、ふとした気の緩みと波が重なると、アッという間に海に転落する。

南氷洋近くであると、体温を長くは保っていられない。人間の本能として、落ちた船を追いかけて泳ぐのだが、そうすると逆に落ちた場所の確定と発見が遅れ、それは死に繋がる。生死を決めるのは、ほんのわずかな偶然であることも多いのだという。

はるか南半球で、まぐろ漁船の乗組員が水に落ちて亡くなっても、おそらく新聞にはほとんど載らないが、板子一枚下は地獄という漁師の口癖が、まさにその通りと思われる壮絶な世界で、漁のことなんかは何も知らない私には、まさに圧巻のノンフィクション。

まあ、しかし、こういう日本のまぐろ漁船が全世界で操業してるから、我々がのんきに寿司屋で中トロなんぞつまむことができるのであるよなあ。土佐船には感謝しなくてはならない。もっとも最近は、乗り組んでる漁師は、ほとんどがインドネシア人になっているのだとか。

マグロは大洋を住処とする回遊魚で、商業ベースでの養殖は成功していない。もしも、日本人が世界の海のマグロ資源を取り尽くしてしまったら、トロも中トロも食えなくなって、寿司屋そのものも滅んでしまうのではなかろうか。