前回のエントリーを書いた直後にこんなニュースが連発:
北朝鮮に対する経済制裁を求める声が日本で高まっていることについて、アメリカ政府当局者は「経済制裁をしても北朝鮮の核問題を話し合う6カ国協議に影響はない」と述べ、容認する考えを示しました。
10日、ANNの取材に答えた国務省当局者は、日本が北朝鮮に経済制裁を発動した場合について、「日本が国益に従って取る行動には、アメリカは関与しない」と述べ、経済制裁を発動することを容認する考えを示しました。そして、制裁が6カ国協議にマイナスの影響を与える可能性について、言下に「ない」と断言しています。こうしたなか、川口前外務大臣が、総理特別補佐官となって初めてワシントンを訪れ、アーミテージ国務副長官やハドレー次期大統領補佐官らと会談しています。
米国務省・エレリ副報道官:「アーミテージ副長官と川口総理補佐官は、イラク情勢や北朝鮮の核開発、拉致問題、日米関係など広範囲にわたって話し合った」
会談では、経済制裁の発動の可能性についても言及があったものとみられます。当局者の発言は、この会談を受けてのものでした。週明けには平沼拉致議連会長がアーミテージ副長官と会談します。アメリカが事実上の容認姿勢を示したことで、北朝鮮への経済制裁発動に向けた日本国内の議論に、一層拍車がかかりそうです。
(ANNニュース2004/12/11 20:15)
北朝鮮による日本人拉致問題で政府は11日、北朝鮮に対して期限を区切って安否不明被害者10人に関する最終的な情報提供を求める検討を始めた。提供された情報が不十分と判断された場合には経済制裁を発動する方針も併せて伝える考えだ。期限については来年3月とする方向で調整しており、11月の第3回日朝実務者協議で持ち帰った資料の分析結果を今月下旬に公表するのと同時に北朝鮮側に通告する方向だ。
北朝鮮が別人の遺骨を拉致被害者の横田めぐみさんのものとして提供していたことを受け、衆院拉致問題特別委員会や自民党拉致問題対策本部が相次いで決議を採択するなど政府の経済制裁の発動を求める意見がさらに高まっている。その一方で、政府内には依然、制裁発動によって北朝鮮との交渉が途絶えることへの懸念も強い。このため、北朝鮮に「最後通告」を突きつける形の要求を行い、それに対する北朝鮮側の態度を見極めたうえで最終的な対応を決める考えが政府内で有力になった。
政府はこの期限に合わせて再度、政府代表団を平壌に派遣して最終回答を求めることも検討しており、その場合、団長に町村信孝外相を起用する案が浮上している。 (毎日新聞12月11日15時6分)
米国との調整はあっという間に進んでいるようだ。日本の自衛隊イラク派遣延長決定はこの米国の判断に影響を与えている事は間違い無い。それを受けて政府側も来年3月を期限に北朝鮮側へ最後通告を突きつけて経済制裁を行う方向で調整しているらしい。
2005年3月と言えば事実上の段階的経済制裁第三段階にあたる改正一般船舶油濁損害賠償保障法が施行される。見事にXデーを3月に照準合わせて来た感じ。これが何故経済制裁かは、2004年3月9日参議院予算委員会で民主党福山哲郎氏の質問でハッキリしている
○福山哲郎君 (前略)残り時間、済みません。今、北朝鮮への経済制裁をめぐって入港禁止、船舶の入港禁止法案が議員立法で与野党ともに議論をされています。そんなさなか、実はこんな法案が政府から出てまいりました。油濁損害賠償保障法というもので、これは一般船舶に対して、油濁損害、要は座礁したときに、保険を加入をしてないと入港させないという法案が出てきたんですが、我が国が百トン以上、百トン未満を含めてですね、我が国に入港している船のパーセンテージをお答えいただけますか。
○政府参考人(鷲頭誠君) お答えいたします。
平成十四年一年間に我が国へ外国船舶が入ってきた入港回数を国土交通省で調べましたところ、百トン未満の外国船舶は延べ入港回数で全体の一・七%となっております。
○福山哲郎君 百トン以上は。
○政府参考人(鷲頭誠君) 百トン以上は九八・三%でございます。
○福山哲郎君 そのうちの保険の未加入はどのぐらいですか。
○政府参考人(鷲頭誠君) 保険に入っていない率というのは二七%、約二七%でございます。
○福山哲郎君 その保険に入っていない率の中で一番保険に入っていない国はどこですか。
○政府参考人(鷲頭誠君) 一番低いのは北朝鮮でございまして、保険加入率は二・八%でございます。
○福山哲郎君 そうすると、北朝鮮の船は九七・二%がこの法案の対象になるということですね。
○政府参考人(鷲頭誠君) 保険に入らない今の状態であれば、そういうことでございます。
○福山哲郎君 そうすると、自動的に入港できないということになりますね。
○政府参考人(鷲頭誠君) はい、そのとおりでございます。保険に入ってない場合には入れないということになります。
○福山哲郎君 私、不思議なんですが、今、経済制裁をするとかしないとか言っている中で、北朝鮮の約九七%に及ぶ船が入れない。保険が未加入で入れないという法案を実は国土交通省は作っています。これは、経済制裁ではないかもしれないけれども、実質的には入れなくなります。
これ、片方では入港禁止だ入港禁止だと言いながら、片方では国土交通省はこういう法案を出してこようとしていると。これは、外務大臣、御存じでしたか。
○国務大臣(川口順子君) そのような法律があることは存じております。
○福山哲郎君 えっ。
○国務大臣(川口順子君) そのような法律があるということは存じております。
○委員長(片山虎之助君) 福山君、もう時間ですから、はい。
○福山哲郎君 これは、はい、実質的に、けれども、これは北朝鮮の船舶を入港させない法律だと私は思っているんですが、要は、私は経済制裁の是非を問うているのではありません。実際に与野党間でこういう議論がされているときに、国土交通省から実態としてこういった入れなくなるような法案が出ていることに対して、総理はどのようにお考えですか。
○委員長(片山虎之助君) 石原国土交通大臣、簡潔に。もう時間来ています。
○国務大臣(石原伸晃君) 簡潔に答弁を申し上げます。
これは目的が全く違うものでございます。
○福山哲郎君 終わります。
福山議員の「えっ」は何度見ても笑える。知る人ぞ知るこの名答弁で空気読める人はこの法案が何故改正されるのか分かりそうなもんだけどな。
全く同じ事が最近新潟県でも起こっていた。12月1日に入港した万景峰号を巡って、11月18日に入港申請が新潟県に行われた。これに対し拉致救出議員連盟(平沼赳夫会長)は泉田新潟県知事に入港阻止を申し入れた。そして泉田県知事の判断は下記の通り:
12月1日の新潟入港を申請していた北朝鮮の貨客船「万景峰92」号に対し、 新潟県は26日、同港内では拡声器の音量を一定レベル以下に抑えることを 条件に、岸壁使用を許可した。また、来年以降の入港時には、適正な保険契約を 締結するよう同船側に求めた。
(時事通信 2004年11月26日)
この入港許可のニュースが出たとき、インターネットの掲示板等では「泉田も北朝鮮に篭絡されたか」とか「泉田、国売るな!」とか多くの批判が寄せられた。本当にそうなのか?知事の記者会見要旨を見ると、笑えるくらい「改正一般船舶油濁損害賠償保障法」についての国会答弁と同じようなやり取りがなされている
Q
万景峰号の入港に関して、今回適正な保険契約を締結していることと、社会通念上許容できる範囲で拡声器の音量を抑えるという(条件を付けた)事で、運用を変える事になるが、これを変えることになった理由と根拠を伺いたい。
A 知事
あくまでも港湾管理をどういう観点でやるかということだが、入ってきた船が座礁して補償が出来ないということになると港湾運営上困る。それから平穏な港湾活動の妨げになるような事というのも困るわけで、これはあくまでも港湾管理者としての裁量の範囲内でいかにして円滑な港湾管理をするかという観点での条件ということだ。
Q
万景峰号を狙い撃ちしたものではないと、それともかなり想定したものなのか。
A 知事
大きな声を出している人は誰かといえば、それは想定しているということだ。他の船でそういう港湾荷役に影響するような大音量で入ってくる船があればまた同じことをする。
Q
そうすると迎える人達に対しても静かな対応を求めるという形か。
A 知事
まあ今後の検討だろう。今回は入港許可という、あくまでもバース使用に対する許可証に対する条件だ。埠頭に入るかどうかという話であり、(迎える側を)どうするかとはまた別の話だと考えている。
Q
適正な保険とは何を指すのか。
A 知事
座礁した時に保険金を払ってくれないような保険会社では困るということだ。結局県負担で船を解体して運んでいかなければいけないという事例が過去に発生してるわけだから、そういう状況では困るということだ。
記事にも記者会見でもヒトコトも出てこないが、泉田知事が「来年以降適正な保険の締結が入港許可の条件」とするのは見事に改正一般船舶油濁損害賠償保障法とリンクしている。また新潟の地元紙によると「適正な保険」の定義は「国際的信用度の高い保険(25社)に加入が必要」となっており、北朝鮮・中国・ロシアの保険会社はこの25社に入っておらず北朝鮮船が保険に加入するのは困難と見られている。
更に泉田知事は11月24日(これは26日の万景峰号入港許可の2日前)に小泉総理宛てに次のような要請文を出している
新潟県の泉田裕彦知事は24日、首相官邸と外務省を訪れ、北朝鮮による拉致問題について「度重なる日朝協議でも進展がない。早期解決のため経済制裁を前提に交渉してほしい」と逢沢一郎副外相らに申し入れるとともに、小泉純一郎首相あての要請文を提出した。
(毎日新聞 2004年11月24日 19時02分)
そんなこんなで11月19日から11月26日までの流れを見れば、新潟県と政府が見事に歩調を合わせた対北経済制裁コラボやってると理解しているんだけど、そんな事はヒトコトも報道されない。
それどころか泉田知事も小泉総理同様「北朝鮮の犬」呼ばわりされる始末。
万景峰号の入港拒否は自民党の纏めた段階的経済制裁で言えばレベル4に相当する。週末に安倍幹事長代理が経済制裁に関して強硬な発言を連発し、新聞各紙は小泉ー安倍で対北政策について確執が有るかの如く書きたて、安倍氏が「制裁に慎重な国会議員については『北朝鮮のシンパと思って結構』」と発言した事を暗に小泉総理始め政府が弱腰と非難しているかの如く印象操作をするが、何の事はない政府と自民党は一体で着々と経済制裁の準備を進め安倍氏は単にその方針をアナウンスしているだけ。
フジテレビで述べた安倍氏の「北朝鮮にもうワンチャンス与えて、答えないのならば(党がまとめた五段階の制裁で最も重い)レベル5(船舶の全面入港禁止)までいかざるを得ない」というコメントは基本的に今政府が行おうとしている事に則っているでしょ?つかそもそも自民党の対北朝鮮経済制裁シミュレーション・チームの代表は安倍氏だし、その提言を小泉総理は受け入れているから当然といえば当然。ま、レベル5とはちょっとブラフだろうけどね、日本の圧力担当大臣としてはそれくらいは善しとする。
ところで平沼赳夫衆議院議員率いる超党派の「北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟」通称「拉致議連」は新潟県や小泉総理に対し「金正日(キム・ジョンイル)政権打倒を視野に入れ、断固、経済制裁の発動を要求する」と圧力かけているが、この人たちは国会議員の集まりの割に改正一般船舶油濁損害賠償保障法の事は知らないのだろうか?好意的に解釈すれば拉致議連は徹底的に家族会側に立ち政府にプレッシャーをかける立場なのかなぁとも思うが、平沼VS安倍の対小泉総理における立場が微妙に影を落としているようにも見える。
今年6月に平沼氏は麻生太郎氏と「ポスト小泉」をテーマに対談しているがその中で彼はこんな発言をしている
(前略)小泉さんは歴史上の人物でいえば織田信長のような政治家だと思います。彼は自民党をぶっ壊すと言い、既存の体制、これまでの自民党の支持母体をほとんど頼りにならないぐらいに弱体化させてしまった。派閥にしても、その性格は従来と全く変わった。彼が既存の体制を変革する役割をもって登場したことは間違いありませんが、一方で、その改革はまだ、"斑現象"の段階だと思います。確かに大企業を中心に景気は回復してきた。しかし、地方の企業、中小企業はまだまだです。今後、都市と農村がどのような形で共存するのか、というビジョンもない。北朝鮮の問題にしてもそうで、彼が拉致問題に風穴をあけたことは確かだけど、その後の解決策となるといささか残念な結果に終わったと思っています。小泉・信長がやり残した改革をどう引継ぎ、いかにして安定した社会を築くのか。これから求められる政治のリダーのタイプは、豊臣秀吉や徳川家康でしょう。その意味では麻生さんは豊臣秀吉であり、私が徳川家康かな(笑)。
(中略)そういう戦後教育の問題を、どこまで小泉さんが真剣に受け止めているのか、大いに疑問です。小泉さんを織田信長型の政治家だと言ったのはそういう意味もあってのことで、織田信長は叡山を焼き払い、お坊さんを焼き殺した。あるいはポピュリズム的に楽市楽座を開いた。しかしながら、国づくりの根幹ともいえる子弟の教育には熱心ではなかった。国策として教育に取り組むようになったのは、徳川体制以降です。(後略)
冗談っぽく最初は言っているが、つまり我こそは破壊者小泉の後に日本を平定する徳川家康なりという意気込みだったんだろう。5月22日再訪朝直後の会見で「あれなら私にもできる」と自民党国会議員で前経産相の立場でありながら小泉批判の狼煙を先陣切って上げたのも頷ける。
その後再訪朝の成果を焦点に徹底的に小泉批判をしてきた平沼氏だが、政権を揺るがす事は出来ず。逆にジェンキンス問題などを蜜月な対米関係を後ろ盾にクリアしていく小泉総理は一層平沼軽視で安倍重用。平沼氏が会長を務める拉致議連の再三の経済制裁を要求する申し入れに対して、小泉総理サイドの反応は一向に耳にしない。まぁ申し入れっつったて「断固、経済制裁!」だけで具体的な提案って感じじゃ無さそうなので反応し様が無いのかもしれないが。一方で安倍氏はしっかり自民党の北朝鮮経済制裁シュミレーションチームのトップに座り政策提案を行っている。かなーり勝負有った感が漂う。
更に最近は町村外相が脚光を浴び、小泉-安倍の年齢ギャップを埋めるような人物が登場し安倍総理までの繋ぎとしての見方も風前の灯。年齢も64歳と小泉総理より上で、ここ1-2年が踏ん張り所なのは本人も自覚していただろうし、参院選で小泉降ろしが出来ず、結果として任期満了まで小泉氏が総理である可能性が高くなったことで平沼総理の夢は潰えたハズ。ところが、遺骨捏造を巡って拉致被害者家族会はもちろん巷で湧き上がる「経済制裁すべし!」の怒りの声は、「抵抗勢力との戦い」を梃子に世論の風に乗ってきた小泉総理のパターンを踏襲し、逆に小泉総理を「抵抗勢力」に仕立て上げ、ポスト小泉を狙う平沼氏にとっての本当に最後の最後のチャンスに写っていたとしてもおかしくない。
もちろん平沼氏が自身の出世の為だけに拉致議連会長の立場を利用しているとは思わないけど、実質的経済制裁である改正一般船舶油濁損害賠償保障法の存在に目を瞑ってるのはオカシイだろう。
逆に言えば小泉総理は安倍氏を上手く使う事でどうやって平沼氏の横槍を押さえ込み世論を味方につけるか色々策をめぐらせていると思う。そういえば平沼氏は引退するアーミテージ国務副長官と会談するらしいが、一方安倍氏は新たに国務長官に就任するライス氏と会談するらしいからなぁ。アメリカにまでちゃんと小泉総理は根回ししてるのか?いやー政治の世界ってドロドロしてますね。
ついでに言えば、安倍氏が町村外相訪朝について「外務省は全く検討していない、ということだった。こちらから会談を持ち掛けるのは愚策だ」とコメントしたことについては、安倍氏が北朝鮮問題のブレインとしての自身の立場を揺ぎ無いものにするために町村氏に放たれた牽制球と見ている。小泉総理にしてみれば安倍氏と町村氏が適度な緊張関係を保って協力してくれるのは理想的だろう。
まぁ国内の登場人物だけでもこれだけ入り組んだ構造になってるわけで、国際的な調整となったらもう15巻くらいの辞書になるだろ。小泉総理の「対話と圧力、両面を考え、交渉は続けていかなくてはならない。」に翻弄されちゃなんにも見えやしないよ。


